ことでんで行く、スパイスカレー:6.RET COFFEE(三条駅)

2022年11月にオープンした「RET COFFEE」は、ことでん三条駅からすぐの喫茶店。こぢんまりとしたお店ながらガラス張りの店内は開放感があり、行きかう人を眺めながら、ゆったりとした時間を過ごすことができます。

メニューにはコーヒーをはじめ、モーニング、お昼にはスパイスカレーとナポリタンなど、さまざまメニューが並びます。アイスクリームやチーズケーキなどのスイーツ、ナポリタンで使用するベーコン、モーニングのオムレツに添えるトマトソースまで、店主の久本和明さんの手作り。現在、お店で提供しているうちのほとんどが自家製です。

「子どもの頃、お店で出されるものは全部お店で作っているって勝手に夢見ていたのもあって。せっかくお店をやるなら、ここだけで食べられるものを作りたいなぁと。なんでも自分で作るのが好きなだけなんですけどね(笑)」

自家焙煎のコーヒーは常時2、3種類。焙煎したての香りの良さを楽しんでほしいと新鮮さにこだわり、焙煎して二週間ほどで豆を使い切るようにしています。

「豆の種類や味わいに合わせて、どんなふうに飲んでもらうのかをイメージして焙煎しています。例えば、『ブラジルショコラ』はチョコレートのような甘味と重厚なボディが特徴で、ミルクで割ってチョコレートミルクのように飲んでもらえたらと深めに焙煎しています。コーヒーでも料理でも、自分で作ったものをどう調理し、どうやって味わってもらうのか、それを考える工程がとにかく楽しいです」

お店を切り盛りする久本裕子さん・和明さん夫妻

ランチタイムに提供しているスパイスカレーは基本週変わりで、この日は「ラムのキーマカレーとスペアリブのカレー」と、食べ応えのあるあいがけ。ラム肉のカレーはスパイシーな香りの中にラムのいい風味が広がり、どんどん食べ進めてしまう。スペアリブはとても柔らかく、スプーンで簡単にほぐれるほど。ジューシーな脂の甘い味わいもたまらない。

「うちでは、刺激的な南インドのカレーと野菜の甘さを生かしたネパールのカレーを意識しています。今日だとラム肉のキーマは南インド、スペアリブのカレーはネパールといった感じです。お肉の柔らかさにはこだわっていて、スペアリブや手羽元でも、手を汚さずにスプーンでするっと食べられる柔らかさを目指しています」

どちらのカレーも最初は辛い!と感じたのに、ラム肉のキーマの後にスペアリブのカレーを食べると優しく感じるから不思議。RET COFFEEのカレーは、食べてすぐスパークする辛みがそのまま長く持続していく感覚があり、気づけばいつも、じんわりと汗をかいている。

スパイスカレーはサラダ付き。この日は味変ができる「ミントアチャール」も

「最初にキレのいい辛さがきた後にじわじわ他のスパイスが効いていき、しょうがやにんにくで辛い印象が持続するようなカレーを目指しています。僕自身はとにかく辛いカレーが大好きで、本当はもっと辛くしたいくらい。でも、あまりにも辛いというお客さんの声を受けて、最近は自分の思うベストな辛さから少し抑えて『ピリッとしているな』くらいに調整するようにしています。カレーが辛すぎたのか、一時期はナポリタンの方がよく出ていたことも(笑)。でも、この辛さがたまらないという常連さんもいらっしゃいます」

久本さんは、お店を始める前はずっと食品製造会社に勤めていました。何をするのかは特に決めずに一度会社を辞め、単発アルバイトなどをしながら半年ほどゆっくり過ごしたのち、妻の裕子さんの提案をきっかけに、夫婦で喫茶店を始めることに。

「お店で提供しているメニューのベースは、料理好きな夫が趣味であれこれ自作していたものです。いろんなものを一から作る彼の料理が好きだったし、すごく楽しんで作っている姿を見て、仕事にしてみたらいいんじゃないかと思ったんです」(裕子さん)

駅を降りて、ふらっと立ち寄れる場所ってなんだかいい、そう考えて駅近の物件を探し、クリーニング屋として営業していたこの場所にたどり着き、自らリノベーションして喫茶店に。突然一からお店をはじめることに、不安はなかったのでしょうか。

「不安がゼロだったといえば嘘になりますが、私たち夫婦が食べていければいいので、うまくいかなかったらまた働きに出るなり、なんとでもできると思っていました。オープン前に十分な告知もせず、前日までシャッターが閉まっていた場所に突然お店ができるような形で始まって。最初は素通りされることが多く、しばらくは苦戦しましたね」(裕子さん)

「ぱっと見で何のお店かわかりづらく、入りにくかったのかもしれません。僕と違って妻は人と話すのが得意なタイプで、『おはようございます』と通勤・通学する方に窓から声を掛けたり、ちょっと足を止める人がいたら『新しくできた喫茶店なんです』と話しかけたりと、とても心強かったです」(和明さん)

お客さんに言われてGoogle Mapの登録はしたけれど、オープンして半年はSNSのアカウントもなく、ひっそりと営業していたRET COFFEE。それでも、裕子さんの地道な声がけやSNSでの口コミをきっかけに訪れた人が常連になったり、一人で来ていたお客さんが週末に家族を連れて訪れたり。他のお客さんがいるのを見て『実は気になっていたの』とふらりと訪れる人も増え、だんだんとお客さんが増えていきました。

「たくさんの人でにぎわって回転率を良くして、というよりは、この場所を気に入ったお客さんがのんびりと過ごしてくれたらうれしいですね。最近、『家みたいにくつろげて、居心地がいい』と言っていただけたことがあって、とてもうれしかったです」(裕子さん)

RET COFFEEの特徴は、一部を除いて常時変化しているメニューにあります。新しい味わいに出会うことができるのは、ついつい足を運んでしまう理由の一つ。たくさんの新作を前に悩んでいると、裕子さんが詳しく教えてくれます。

カラメルソースたっぷりの『おとなプリン』

「夫が新しいものを作るのが好きでメニューがよく変わるため、お客さんからしたらわかりにくいかもしれないですね(苦笑)。でも、そういった説明含めてお客さんと話ができるお店になればと思っています。会話ができるサイズのお店だし、自分たちの思う『喫茶店らしさ』みたいな雰囲気にできたらいいなぁと」(裕子さん)

「スイーツの中で開店当時から唯一変わっていないのは、『おとなプリン』です。実はずっとコーヒーとプリンを推しています、これぞ喫茶店というメニューですね。固めの生地に、カラメルソースはたっぷりと。オレンジのリキュールをほんのり香りづけ程度に入れて、大人向けのプリンに仕上げています」(和明さん)

お店がスタートして10か月。これからどんなふうに変化していくのだろう。

「この場所にあったクリーニング店は、私たちが借りる直前はお菓子やたばこを販売し、近所の大人や子どもたちが集まる、寄り合いのような場所でした。そんなふうに、気兼ねなく人が集まり、会話ができるようなお店にしていきたいです」(裕子さん)

「いつ訪れても新しい楽しみがあると思ってもらえるよう、何を進化させていくのかは日々悩みながらチャレンジしているところです。今後はさらに、明るい時間からお酒やちょっとした一品料理も提供してみたいですね。飲み会前に一杯お酒を飲んで、ぱっと電車に乗って街に出るという感じで。とはいえ、うちはあくまで喫茶店。今の形は崩さずに、どんな形でやっていくのかを楽しみながら考えていきたいです」(和明さん)

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RET COFFEE(レトコーヒー)
自家焙煎のコーヒー、プリンをはじめとした自家製スイーツから食事まで楽しめる喫茶店。朝はドリンクに+100円で自家製フォカッチャやオムレツのプレートが付くモーニングサービスがあり(8:00-10:30L.O.)、ランチタイムにはスパイスカレーや自家製ベーコンのナポリタンなどの食事も(11:00-15:00L.O.)。店内のディズニー雑貨は裕子さん、本は和明さんの趣味と、お店には夫婦それぞれの好きなものが集まっている。ことでん琴平線三条駅すぐ。

高松市上ノ町3-9-38
平日8:00-18:00/土日祝8:00-17:00(平日のみ17:30 L.O.)
モーニング、ランチは売り切れ次第終了
TEL:なし
8月は木曜定休
最新の営業情報はInstagramをご確認ください

〇店主おすすめ、近くの場所:野田池緑地公園

「店名の『RET』は以前私たちが飼っていた犬の名前で、お店を始める前はよく野田池~三条駅周辺を散歩していました。野田池はすごく大きくて、いい運動になりますよ。季節によって草花が変化し、途中の川の生き物を眺めているだけでも楽しいです。気候のいい日にことでんで三条駅で降りたらぐるっと散歩をして、お店でコーヒーを飲んでひとやすみ、なんていいコースだと思います」(裕子さん)
香川県高松市松縄町(RET COFFEEから徒歩15分)

●ことでんで行く、スパイスカレー
1. 朔日(※善通寺市へ移転)
2.栞や/琴電琴平駅(※閉店)
3.カリー屋MARU/栗林公園駅
4.Kinco.hostel+cafe/花園駅(※閉店)
5.ヒッカリー/仏生山駅
*記事の内容は、掲載時点のものです

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に香川県高松市へと移り住む。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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