ことでんで行く、スパイスカレー:5.ヒッカリー/高松市・仏生山駅

香川の私鉄「ことでん」で行くスパイスカレー、今回は仏生山駅の真横にあるヒッカリー。駅からは歩いて30秒です(※2022年4月に仏生山駅徒歩9分に移転)。日替わりのカレーと奥様の屋号「ヒッコリー」のお菓子を求めて、ランチタイムには行列になることも。インドの副菜がたっぷり盛られたカレーは、目にも鮮やか。お店を営む宮武隼人さん、瞳さんにお話をうかがいました。(1.朔日/瓦町駅2.栞や/琴電琴平駅3.カリー屋MARU/栗林公園駅4.Kinco.hostel+cafe/花園駅

店主の宮武隼人さんは、香川県三豊市で生まれ育ち、高校卒業後に大阪へ出てバーテンダーに。カレーを作るようになったきっかけは、タイ旅行で食べたカレー。

「自分の中のカレーのイメージとは全く違う味わいも、米、複数のカレー、副菜で構成された、混ぜて食べる定食スタイルも初めて。とにかく衝撃的でした。カレーの概念がガラッと変わり、これは面白いぞ、と自分で作ることに夢中になったんです」

そうしてバーで提供するようになったカレーが評判を呼び、カレーイベントを開催したり、カフェやアジア料理などの仕事に移った際もさまざまなカレーを担当してきた。ヒッカリーの特徴は、先ほど話に出た定食での提供。このスタイルは、開業前に一カ月滞在したインドで決めたという。

「どんなスタイルのカレーを提供しようか悩み、味の勉強も兼ねて一カ月ほどインドに行きました。ホームステイ先の家庭の味から庶民的なレストラン、高級ホテル、といろんなお店を回り、毎日3食以上カレーを食べ続けました。その中で、改めてインドカレーの定食の魅力に気づいたんです」

「副菜としてよく登場する “じゃがいものサブジ” は肉じゃが、 “アチャール” は漬物に通じるものがあり、なんだか日本の定食に近いし、一皿でいろんな味が楽しめるのは面白い。よし、このスタイルで提供しようと決めました」

カレーのお店を考え始めた頃は大阪に住んでいたものの、自分のモットーである “ほど良く、長く、楽しく” を大切にするには、都会的なせわしい環境は違うと感じていた。そんな中、久々に帰省した香川に増えた多様な個人店を見て、「うどん店以外のお店も増えてきた。今ならカレーという特殊な業態でもできるじゃないか」と仏生山にお店を構えることに。

「仏生山は歴史を大切にしながらも新しく来た人を温かく受け入れていて、地元の人も街が変わることに対して前向きです。なにより人がいいんです。お店をDIYしている最中、通る人がみんな “なんがでっきょんな?” って声をかけてくれたり。実際に食べに来てくれるのはもちろん、おしゃべりしに寄ってくれたりと、とても気にかけてもらっています」

「近くの現場で仕事している作業員さん、中高生グループ、一人で来る方、家からお鍋を持ってきて家族分テイクアウトする方……お店にはいろんな方が来てくれて、みなさんがそれぞれ楽しんでくれる。この雰囲気こそ自分がやりたかったお店なんですよね。この街でお店を始めて良かったと思うし、ずっと仏生山で続けていきたいです」

さわらのケララフィッシュとサグチキンのあいがけ

「うちでは伝統的なインド料理をベースに、日常的な食材を素朴な形で出すことが多いです。インドの伝統はそのままにしながら、日本人がおいしく食べられるには、というのをいつも考えています。例えば、魚のカレーはインドだったら魚を骨ごとぶつ切りにして調理して、骨からも出汁や旨味が出るのがおいしさの秘訣。でも、この調理法は手で食べることを前提にしていて、スプーンだと食べにくい。だからといって切り身を使ったら、骨の旨味が出せません。うちでは魚を捌いて骨で出汁をとり、その出汁と切り身を合わせてカレーを作ります」

カレーに添えられるインドの副菜は常時4、5種類。副菜は食感や味わいがそれぞれ違い、単品で食べるのはもちろん、カレーや他の副菜と混ぜると味わいが変化して面白い。

「自分が衝撃を受けたインド料理の面白さを知って欲しい、そんな想いを一皿に込めています。構成を考えるときは、見た目の華やかさだけではなく、一つひとつの食材に意味を持たせ、食材・スパイスが被らないよう、またどこが混ざってもおいしくなるように意識しています。どっしりとしたカレーには酸味を持たせたり、副菜は甘み、辛味、酸味、苦みを一つひとつ突き上げ、一皿を通して偏らないよう、バランスを考えて作っています」

「香味野菜も含めると、一皿に10~15種類もの野菜を使っています。インド料理って、知らないうちにたくさん野菜が食べられるし、スパイスには疲労回復や整腸作用など、漢方的な効果があります。塩だけの調味でもおいしい、スパイスや食材のそんな力を感じてもらえるとうれしいです」

「食べる時のルールは気にせず、ざっくり混ぜたほうがそれぞれの食感が際立っておいしいと思います。インドの人が手で食べるイメージですね。辛味だけじゃない、甘み、酸味、苦み……いろんな味わいを楽しんでもらえたら」

取材日のメニュー、牛肉と春菊の四川風カレーとゴアンプロウン(海老カレー)のあいがけ

「今日の “牛肉と春菊の四川風カレー” は、数日前に食べた四川風麻婆豆腐がおいしかったので、辣味(らつみ)と麻味(まみ)、2つの辛さで構成される麻辣の雰囲気を出そうと作りました。普段は使わないスパイス “ホアジャオ” を使っています。ホアジャオの辛味は舌にピリッと残り独特。もう一つの辛味をチリで出しています。2つの辛さを使い分け、味わいが立体的になるよう構成しました。伝統的なカレーを自由な発想でアレンジして作る、普段とはまた違ったカレーになりましたね」

「日替わりのカレーは、食材に合わせてメニューを決めることが多いです。魚屋さんから良いサワラが入ったと聞けば、サワラに合わせてどんなカレーを作るかを考える。近所には目利きのいい魚屋さんや、地元の農家さんがいます。近くで採れたものは、やっぱり新鮮でおいしいです」

カレーと共に人気なのは、瞳さんが作る「こだり卵のプリン」。

「プリンはカレーの後にぴったりなデザートだと思います。お腹いっぱいでも食べられるのもあって、一番人気ですね。プリンって、シンプルだから卵の味がはっきり出るんです。お気に入りの有精卵で作っています。他の卵でも作ってみたんですが、味も食感も変わり、驚きました。うちのプリンは、今使っている卵ありきでご提供しています」(瞳さん)

カレーでお腹いっぱいになっても、ケーキや焼き菓子はテイクアウトができるのもうれしい。軽やかなケーキは、サイズは大きいのにさらっと食べられる。「クラシックショコラのガトーショコラ」といったベーシックなものから、「ホワイトチョコと焼きミカンのタルト」など、一風変わったメニューも並びます。

「これまでの経験から、これを組み合わせたらおいしいかな、って感覚的にメニューを考えています。お菓子作りで大切にしているのは、毎日おやつに食べたくなるような、子どもが一人でも買いに来れるような “お菓子” を作ること。小さなお子様も好きなものが選べるように、基本的にはお酒を使わないようにしています」

「プリンって、普通にそのまま食べるよりも、カレーを食べた後の方がすっごくおいしいんです。お客さんのリアクションがカレーの時とはまた違って、カレーもお菓子も提供できるのは楽しいですね」(隼人さん)

ヒッカリーには、カレーとお菓子、2つの魅力があるからこそ味わえる時間が流れていました。小さなお店はいつも温かく、スパイスの香りの中で、誰もがにこにこと楽しそう。このお店に来るとき、そんな空気も一緒に味わいに来ているんだと思います。ことでんの音が届く店内で、仏生山の街の音や空気感も一緒に楽しみながら、ゆっくりと楽しんでほしいお店です。

〇ヒッカリー
インドの伝統的なカレーをベースにした創作カレーのお店。30種類ものスパイスを使い分け、食材の魅力を引き出したカレーは日替わりで2種類(単品900円、あいがけ1100円)。小さなお子さまでも食べられる、辛くない「こどもチキンカレー」、プリンやケーキなどのお菓子も提供しています。カレーにはインドの副菜が4、5種類盛られ、それぞれを単品で食べても、カレーやほかの副菜と混ぜて味わいの変化を楽しんでも。その日のカレーとお菓子のメニューは各Instagramでご確認ください。

〇店主おすすめ、近くの場所:たまるや七草着物店

手間をかけて作られた着物を長く愛せるよう、手持ちの帯や着物に合わせたコーディネートの提案やリサイクル着物の販売、1級染色技能士によるメンテナンスなどを行っています。「着物を着るようになると、季節の移り変わりに敏感になります。模様や素材を四季折々でお楽しみいただけたら。結婚式などの装いに、ドレスから着物へ、というお客様も増えています」と店主の多田真智子さん。幅広い価格帯で、リーズナブルなお品も。「静かな気配」をテーマにセレクトされた着物や古道具の並ぶ店内は、見ているだけでも心地いい。是非気軽に立ち寄ってみてください。
香川県高松市仏生山町甲832-6(ことでん仏生山駅から徒歩4分)
・定休日:日・水
・営業時間:12:00-18:00※午前中は予約制
・TEL:087-805-9948
Instagramホームページ

●ことでんで行く、スパイスカレー
1. 朔日/瓦町駅
2.栞や/琴電琴平駅
3.カリー屋MARU/栗林公園駅
4.Kinco.hostel+cafe/花園駅
5.ヒッカリー/仏生山駅
*記事の内容は、掲載時点のものです

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に香川県高松市へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、広報サポートなど、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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