必要な場所を自分たちで作り、続けていく。(写真家・Yuka Mizuharaさん)

写真家のYuka Mizuharaさん(以下、Yukaさん)は、SNSで見たみずみずしい作品と、そこに添えられる柔らかな言葉にひかれ、気になっていた存在。Yukaさんは写真家として活動しながら、21歳でアトリエ兼ギャラリーショップ「minamo」を作家仲間と立ち上げ、運営しています。一度会ってみたいとminamoを訪れたことをきっかけに、Yukaさんとは時々一緒にお茶をするように。5周年を迎えたminamoのこと、香川にUターンして写真家として活動してきた数年のことを聞いてみました。

*

——高松の高校を卒業後、写真の専門学校に通うために大阪に引っ越されたんですね。

そうですね。18歳から大阪で一人暮らしをしていました。卒業後は就職することなく、京都に移り住んで写真の美術展のスタッフなどをしながら、香川にしょっちゅう帰ったりして。香川に拠点を移す夏までの数か月は、ふらふらしていましたね。

——就職しなかったのは?

写真館や写真スタジオ等に就職後に独立してフォトグラファーになるか、定期的に作品制作をして発表を続ける写真家になるか、大きく二つの道があって。私は写真家になろうと思っていたんですね。所属ゼミの先生が写真家として作品発表を継続されている姿を見ていたので、とても自然な選択でした。

香川に帰ったのは、大好きな祖父の体調が悪くなり、最期は一緒にいたかったことに加え、落ち着いて制作できる環境に身を置きたいと考えてのことでした。京都の部屋は、関西圏での展示を見に行く際に滞在できるよう一年半ほど借り続け、香川に拠点を移した後も行ったり来たりしていましたね。

——香川で暮らし始めてからは、どんなふうに過ごしていましたか?

社会人向けの写真学校に通い幅広い世代の人に出会えたり、落ち着いた環境で写真に取り組めたりとそれなりに満足していたものの、これからどうやっていこうかという不安は大きかったです。自分の制作もしながらフォトグラファーとして商業的な撮影もする「写真でご飯を食べていく」人と、生きるための仕事は別で制作・展示などの作家活動をする人がいると思うのですが、私は後者で。帰ってきてからはカフェなどのお仕事をしながら制作活動を続けていました。そして、香川に戻ってから5か月後に漆芸家の竹森滉さんとアトリエ兼ギャラリーショップ「minamo」をオープンしました。

(関西時代にフィルムで撮影していた作品。モデルは竹森さん/写真:Yuka Mizuhara)

——minamoを共同運営されている竹森さんとのことを教えてください。

竹森さんとは、高校生の頃に通っていた雑貨店で出会って仲良くなりました。大阪時代も定期的にお茶をしたり、被写体になってもらったり。香川に帰ってきた当時の貴重な作家仲間であり、友人でもありました。彼女は香川の伝統工芸である漆芸の作家として、自分の手で一から作品を作り上げていきます。カメラを使って表現する私とは、全く違う視点を持っている人ですね。

そんな彼女と「制作する場所が欲しいよね」と会話したのがminamoの始まりでした。私の場合、実家のスペースでは制作が難しかったんですよね。そして、当時同世代で作家活動をしている人たちは、みな「気軽に展示をできる場所がない」という共通の悩みを持っていました。私自身、香川に帰ってきた節目に展示をしようとギャラリー探しをしたのですが、高松市内のギャラリーの少なさにとても驚かされました。また、20歳の私が一週間借りるには、なかなかハードルが高くもありました。

誰かに見てもらわないと、自分の手で生み出したものが光を浴びることはありません。それって、すごくもったいないことだと思うんです。私も展示をやったから気づけたこと、得るものがたくさんありました。自分とは全く違う視点で作品を捉えてくださる方の話を直接聞けたり、それがのちのち活かされることがあったり。そんな経験ができたのもあり、もっと気軽に展示ができるようになればと考えるようになりました。最初の一歩ってものすごく勇気がいるから、その後押しをしていきたいなと。

そういったことを竹森さんと話し合い、アトリエ兼ギャラリーショップという形でminamoができました。minamoは私たちの作品を展示・販売するだけでなく、若手作家の応援をコンセプトに、気軽に展示をしてもらう場の提供、作家同士の情報交換の場、いろんな世代の人と交流する空間を目指しています。それは結果的にアートに触れる機会を地域に増やしていくことにもなるのではと考えました。

——自分達の課題感を解決する場所を作れば、きっと誰かの困りごとの解決にもなるという発想があったのですね。この場所の決め手は?

居心地がいいと感じたのと、ちょうどいい広さだったこと、なにより街中にあることです。こんな街中の物件が借りられるって、香川ならではのチャンスですよね。また、大阪時代の感覚からすれば賃料的にも挑戦しやすいですし、価格を抑えて展示スペースの提供ができると思いました。

——5周年という節目に開催した企画展「海辺の景色」(現在は終了)は、どのように作っていきましたか?

私と竹森さんが海にまつわる作品を作っていることから、まず、テーマは「海」にしようとなって。今回は、私たち二人に加え、三人の作家さんに参加していただきました。タイトルを伝えて1、2点の作品と販売するグッズの用意をお願いし、内容は作家さんにお任せ。搬入の時にみなさんが用意してくださった作品を初めて見る感じです。

作家さんのグッズや、企画展に合わせてセレクトした商品も並ぶ

——企画側で作品を指定しないことで、全然違う雰囲気の作品が集まったら、なんて心配はないのでしょうか。

作品のトーンが合いそうな方たちに参加していただいたので、不安はありませんでした。何点か持って来てくださっている方もいて、作品同士の相性を考慮しながら、竹森さんと調整していきました。まだいろいろと手探りな部分もあって、他のギャラリーさんはどうしているのか聞いてみたいです(笑)。このような組み立て方は、ある程度面識のある作家さんたちとだから成立しているのかもしれません。

——企画展「海辺の景色」に参加した作家さんたちのことを教えてください。

但馬ゆり子さんは、minamoで一番多く展示していただいている方です。10代の時に高松で出会ったのが最初で、お互い県外に出てもSNSで繋がっていました。minamoができて作品をお店に飾らせてもらったり、海辺で貝や海のスケッチをしている制作風景を撮影したりと、ご縁が続いています。

河西紀亮さんは、minamoのお客さんが紹介してくれたのが最初でした。アトリエにお邪魔するようになり、今では友人の一人でもあります。描写に独特の美学があって、その世界観に惹かれています。頭の中はどうなっているのだろう?と不思議に思わせてくれる作家さんですね。

上野あづささんの作品とは、香川に戻ってきて一年目に、たまたま訪れた展示で出会いました。50作品以上展示されている中で一番印象的で。私、いいものをみると、怖いものを見た時みたいにその場から動けなくなってしまうんです。時が止まるっていう感じが近いかな……。上野さんの絵は、そんな作品でした。

その後上野さんの展示を見に行くようになって、どうやったらこの優しい色が出せるのだろう、やっぱりすてきだなあ、とすっかりファンになりました。いつか展示してもらえたらとお伝えしていて、念願叶ってご参加いただきました。今回の展示作品は上野さんと出会ったきっかけの一枚なので、とても感慨深いです。

右から時計回りに上野あづささん、但馬ゆり子さん、Yuka Mizuharaさんの作品

河西紀亮さんの作品

これまでは持ち込み企画の展示を開催していたので、自分たちによる企画展は今回初めてのことでした。実際にやってみると、この形がフィットすると感じていて。持ち込み企画は少しお休みして、しばらくは自主企画展を定期的に開催する予定です。

——Yukaさんにとって、minamoはどんな場所ですか?

新たに誰かと出会える場所、ですね。初めて見かける方がこのビルの4階まできてくれるって、どこで知ってくれたのかしらと気になって聞いちゃいます(笑)。近くにミニシアター、本屋さん、古本屋さんなどがあるので、その帰りにたまたま見つけてくださる方もいます。高松工芸高等学校の生徒さんや普段なかなか出会うことのない70代のおばあさんなど、幅広いお客さんが訪れてくれています。

作品の説明をしていたら、「最近香川に帰ってきたのですが、普段どうやって制作していますか?」と相談を受けることや、Uターンを検討している方から「どうして香川に帰ってきたんですか?」と聞かれることもあります。そうやって何か考えている人、答えを探している人がminamoにたどり着いてくれることがうれしいですね。

持ち込みの企画展示をやっていたことによって、作家さんを起点にした出会いもたくさんありました。ここで出会う人たちは、一生懸命制作活動をしている人が多いですね。制作の話を聞いていると、ものすごく制作意欲を掻き立てられることもあって。そんなふうに、刺激を受ける場所でもあります。

——場所を持つ醍醐味なのかもしれないですね。私も「minamoに行けば、Yukaさんに会える」と思っています。

そう思ってもらえるのは、うれしいです。別の場所で出会った人がminamoを訪れてくれて、そこからぐっと仲良くなることもありますし。そうしてご縁が長く続いていくことが多く、とてもありがたい環境です。

——私はまだギャラリーという空間に不慣れでどうしても緊張してしまうのですが、minamoは雑貨屋さんのような感覚で気負わずに過ごせて、くつろいで作品と向き合える気がしています。優しく、ぽつぽつと作品や作家さんのことを教えてくれる感じも好きです。何か意識していることはありますか?

ありがとうございます。うーん、強いてあげればですが、自分のペースでゆっくり喋ると相手とリズムが合うと気づいてからは、そうするようにしています。作品から受け取るものもある中、早口だと情報量が多くなってしまうので、ゆっくりは大事な気がしています。あとは、そっとしておいてほしそうな人にはあまり話し掛けないようにしていますね。

――その見極めって、なかなか難しくないですか?

そうですね、数年続けているカフェでのお仕事が活きているのかな。もともと私は人見知りなんですが、カフェでの接客はすごく楽しくて。いろんなお客さんと話すので、それがminamoでの接客に反映されているのかもしれないです。

——大阪の専門学校を卒業してからこれまでを振り返って、今感じることは?

いろいろなことが、時間をかけて望む形になってきた実感があります。写真というやりたいことがある中で住む場所を変えるのは、結構な不安がありました。でも、その場所で自分がやっていくしかない、どうにかしていい方向にもっていくしかないって根性みたいな(笑)、それは最初からありましたね。コロナ禍での浮き沈みを経験して、作家活動は生活と地続きなのでしんどいこともありましたが、糧になったと感じています。

商業的な仕事は向いてないと思っていたのですが、最近「思うように撮ってください」と言っていただけたお仕事があって。先方の依頼と自分の望む写真がいい感じに重なり合っている感覚があり、こういった相性のいい仕事も受けていきたいと思うようになりました。それは、自分の得手不得手でこうなってしまうという感じです。例えば、自然の中で人物を撮るのは得意ですが、商業写真のように、ライティングやセッティングを計算するスタジオワークには苦手意識があって。

(写真:Yuka Mizuhara)

——写真とギャラリーだけで食べていきたいと考えることはありますか?

なるべく作家活動に重きを置いていきたいですが、人生何が起こるかわからないし、引き続きカフェなどのお仕事でも安定は確保していく予定です。その分、お金のことから離れて制作に集中できるし、写真以外の場にいることでさまざまな出会いがあり、豊かな時間に繋がっています。ただ、最近は制作が増えて時間配分が難しくなってきているので、そろそろいろんなことを見直す時期なのかもしれないのかもしれないですね。

——今後の写真家としての活動や、minamoの展望はありますか?

minamoがあることに満足せず、ここで何ができるのかを考え続けていきたいです。目先の目標は、定期的にお店を開けて次の6周年を迎えること、作品制作をコツコツと続けて定期的に自分の展示を開催することですね。minamoを始めた時は二人だけの作品が並んでいましたが、今では十人以上の作家さんの作品が並んでいます。二人で運営することによって、お互いのアンテナ、作家さんとの関係性が交わったのは思いがけないうれしいことでした。続けてこられたこと、こうして変化してきたことがうれしいし、この5年で積み重ねてきたものを実感しています。

写真家としてのお仕事は、いくつになっても世代を問わず、いろんな人と会話ができると感じていて。おばあちゃんになっても若い世代の人とかかわっていけたらいいな、なんて理想像がぼんやり見えています。今一番大事にしていることは、続けることですね。minamoも、写真も、続ける先にまた新たに見えてくるものがあるはずなので、それを楽しみに頑張りたいです。

Yuka Mizuhara
1997年生まれ。写真家として活動する傍ら、アトリエ兼ギャラリーショップ「minamo」を共同運営している。作品づくりは、「今日、海がきれいだな」といった日常の些細な感動を、日記を書くような感覚で写真に収めている。作品制作以外にも、展示の記録や作品撮影、雑誌などの撮影も行う。2024/4/23~4/29にグループ展「光の森」(大西・アオイ記念館)に参加。
最近良かった本は「柚木沙弥郎 Tomorrow」(著:柚木沙弥郎・大島忠智)。書籍、ZINE、雑貨を扱うオンラインショップ「海街Hutte」を準備中。
Instagram

minamo
写真家・水原優花と漆芸家・竹森滉が運営するアトリエ兼ギャラリーショップ。瀬戸内で活動する若手アーティストの作品の展示・販売、グッズの販売などを行う。常設作品に加え、そのときおりの企画展に合わせた作品が並ぶ。現在、令和6年能登半島地震復興支援チャリティー展として、「猫と共にある暮らし」を開催中(2024/3/16 – 4/28)。猫と暮らす5人の作家の作品が並んでいる。展示開催時のみの営業となるため、最新の営業情報はInstagramでご確認ください。
香川県高松市亀井町11-10 4F
Instagram

*記事の内容は、掲載時点のものです

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に香川県高松市へと移り住む。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

Back to Top