自分の作るぶどうで、大好きなワインを

 ー高松市・会社員 釜野 清登さんー

ワインバーに来る人は、みんなワインが好き。カウンターではワイン好き同士の会話が自然に弾む。一年ほど前、ワインバーで飲んでいたら隣り合わせた釜野さん。「趣味でワインを作るためのぶどうを作っていてね」、ワインのために、ぶどうを作る…?!趣味で…?!「今東京に転勤になって、ぶどう畑の管理が大変なんですよ、畑のお手伝いしてくれませんか?」とのことで、お酒を飲んでいたのもあってうっかり安請け合い。畑のお手伝いをしながら、釜野さんにお話を聞きました。

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ぶどう畑があるのは高松市街地から車で30分、高松市西植田。趣味でやっている、という言葉から想像していたよりも、ずっと広い。3,000㎡ほどの広さがある。

この日は7月上旬、じめっとした暑さがまとわりつく日で、作業を始めるとすぐに汗ばみ、首筋を汗がつたう。赤ぶどうと聞いていたが、まだブドウの実は青々としていて、ぎゅっと硬い。小さなまん丸の実は、とてもかわいい。

「まだ緑色で酸っぱいんだけど、これが熟すと濃い紫色になって、甘くなるんです。ワイン用のぶどうは、食べても甘くておいしいんです」と、釜野さん。

釜野さんは高松市に生まれ、大学進学で東京へ出た後、就職で高松にUターン。ワインバーに通うようになった頃、知人がソムリエの試験勉強をしているのを見て、実務経験がなくても挑戦できる「ワインエキスパート」の勉強を始める。ワインはどのように造られるのかや、ぶどうの品種による味わいの違いを知るようになり、ごく自然に「ぶどう作りからワイン造りまでを通してやってみたい」と思うようになった。

「最初は軽い気持ちでワイン用のぶどうを自宅に植えてみたんです。育て始めてみたものの、よく考えたら育て方がわからなくて(笑)」

そこでワイン用ぶどうの栽培を年間の流れで勉強できる神戸ワイナリーの研修に通うことに。高松から神戸まで年に5回ほど通い、ぶどうの栽培から収穫までを習得し、家でも実践した。家で予想以上に上手く育てることができたところに、「休耕田を使ってくれる人を探している」という話が舞い込んだ。思い切って本格的にチャレンジしてみることにしたのが、この畑だという。

2019年の春から転勤で東京に出た釜野さんだけど、畑を始めた2018年は高松に住んでいた。朝5時に起きて、車で30分かけてぶどう畑に行き、1時間ほど剪定や水やりをして、シャワーを浴びて仕事に行っていたそう。

「1時間も作業していると汗だくになるんですが、それが清々しくて、気持ちいいんですよ。朝早く起きるようになって、自然と夜遅くまで飲まなくなりました。小一時間立ち飲みしてさっと帰ったり、とかね」

この日、転勤した釜野さんに代わってこの畑を託された阿部さんも畑にいました。釜野さんは転勤した当初、毎週末高松に帰って畑に来ていたものの、週に一回の世話ではぶどうをダメにしてしまうと思い、ワイン仲間の阿部さんに相談したそう。

当時のことを、阿部さんにお聞きしました。
「仕事を辞めることになった、と話していたら、畑を管理してほしい、ってお願いされて。今思うと時間も自由になったタイミングだったから、丁度良かったのかな(笑)。6月でも畑で作業していると十分に暑くてバテそうになるんですが、 “ぶどうちゃん、大丈夫かな?” って気になるんですよね。毎日のようにお世話していると、なんだか愛しくて。畑がこんなに楽しいなんて思ってなかったです」

にこにことうれしそうに話してくれる阿部さんは、てきぱきとぶどうに袋掛けしていく。これから実が大きくなるぶどうが、その重みで木から外れたり、美味しい実が鳥に食べられないようにする作業です。私も袋掛けに挑戦。ひと房ずつやさしく袋掛けしていると、手をかけるほど愛しくなるのがわかる気がします。

この日は畑に刺してある支柱にめぐらされた針金に、ぶどうの木の蔓や枝を括りつける作業もお手伝いしました。少し補助してあげるだけで、ぶどうの木は自然と支柱に蔦をからめていく。ぶどうの木は2年目、3年目になると支柱で支えてあげないと、幹がだらんと寝てしまう為、支柱を立てることで木が自立するのを支えます。畑に支柱をたてるのは結構大仕事。「支柱を立てるバーベキューイベントin畑」を企画し、友人の力を借りて300本程の支柱を立てたんだそう。

この日はすべての木のぶどうに袋掛けをする前に、雨が降ってきてしまいました。ランチでも食べましょう、と畑の上にあるオキオリーブガーデンカフェへ。あいにくの天気だけど、オリーブ畑の中はとっても気持ちいい。

「一つの成功したワイナリーができると、その周りにパン屋ができたり、ペンションができたりと、ひとつの集合体ができるんですよね。ここにはオキオリーブのオリーブ畑があり、このカフェがあって、その下に僕のぶどう畑があって…。ここを訪れる人が増えて、新しく何かを始める人が集まったら面白いですよね。」

最初のお手伝いから1カ月ほどたった8月、「ぶどうが赤くなってきましたよ」と釜野さんから連絡をもらい、暑い早朝、2回目のお手伝いへ。1カ月ぶりに見たぶどうたちは、紫に染まりはじめ、実が膨らんでいた。

有機栽培で安全だから、と渡されたぶどうをそのまま口に入れると、張りがあるジューシーな食感に、酸味、ほんのりと甘味があって、おいしい。
「まだちょっと酸っぱいね。これから熟して、もっともっと甘くなります」と、目をキラキラさせる釜野さん。純粋にぶどう作りを楽しんでいるのが伝わってくる。ぶどうの実はもう少し膨らむんだそう。

苗木を植えたての2018年は一本の木から3、4粒ほどしかぶどうが採れなかった釜野さんのぶどう。ぶどうはしっかりと収穫ができるのは3年目、それが安定するのは4、5年目と言われています。

「今回2年目ながら、思ったよりたくさんのぶどうが収穫できそうなんです。ワイナリーさんにお願いして、このぶどうでワインを造ってもらう予定です。オリジナルワインができるんですよ、楽しみですね」

ほんのちょこっとお手伝いしただけなのに、私もすっかりこの畑のぶどうがかわいくてたまらない。このぶどうから造るワインがどんな味になるのか、今から楽しみ。

「来れるタイミングで畑を手伝ってくれる人がこれからもっと増えて、このぶどうからできたワインに関わる人が増えたらうれしいですね。ぶどうの木のオーナー制度を作ったり。2020年5月から3年目が始まるので、お手伝いしてくれる人も募集しています」

行けるときにちょこっと行く、不器用であまり戦力にもならなかった私ですが、緑いっぱいの畑の中、足の裏で土のやわらかさを感じながら、草を抜いたり、ぶどうを守る作業をしたり。朝からいい汗をかいて、なんだかとっても気持ちよかった。たのしい時間をありがとうございました。お手伝いしたぶどうでワインができるの、楽しみです。

釜野 清登
1964年、高松市生まれ。社会人になって最初の趣味はスキー。趣味が高じてスキー連盟に入って活動していたが、怪我をして距離を置いていたころにワインにハマる。釜次智久として監督をした映画「The lion dance しあわせ獅子あわせ」は第7回さぬき映画祭でグランプリを受賞。会社員でありながら趣味でワイン講師、ぶどう栽培、映画監督、と好きなことに素直に挑戦し続けている。

ぶどう畑について
釜野さんのぶどう畑は今回ご紹介した高松市西植田の他に高松市高松町にもあります。下記Facebookページにて栽培状況やイベントを発信中。2020年3月に新たな苗木を植えたばかり。ちょっとお手伝いしてみたい、という気軽な気持ちでも、是非一度体験してみてください。参加希望の方はFacebookのメッセージでお問い合わせください。
Facebookページ「ワインアイランド」

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、ミヤモト惣菜店広報&BARタイム担当など、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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