光をあてる人

― 高松市・新聞記者 金志尚さん―

日々触れる、ニュースや新聞記事。思いがけず、自分の心が大きく揺さぶられることがあります。誰が書いているのだろうと確認すると、名前を目にすることの多かった毎日新聞社の金さん。記事に注目すると、様々なニュースの取材の中でも、自身のテーマをもって取り組んでいることがうかがえました。金さんのテーマについて、取材や記事を書くときに大切にしていることについてお聞きしました。

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私(金)の生まれは東京です。学生の頃から「深夜特急」で知られる作家の沢木耕太郎さんが好きで、よく読んでいました。「一瞬の夏」を読んだ際、文章だけで読み手に情景や繊細な心の揺れ動きを伝え、人の心を動かすのはすごいことだ、と感動したのをきっかけに書く仕事に憧れ、新聞記者になりました。記者人生は、先輩から取材や記事の書き方を盗む、職人のような日々からスタートしました。

入社9年目の2015年に金沢勤務になり、この頃から福祉や障害者、生きづらさを抱える「マイノリティ」が自分のテーマになりつつありました。自分が在日コリアン3世で、マイノリティにシンパシーを持っていたこともありますが、初めてじっくり取材をし、長い記事を書いたのが「摂食障害」だったことは大きく影響しています。

摂食障害は一般的に馴染みが薄く、正確に理解した上でわかりやすく書くことが重要でした。摂食障害について調べ、対象者の著書を読み、講演を聞き、インタビューを複数回行い…と必然的に取材は深くなり、自分にとってそれまでにないボリュームの記事になりました。時間も熱量も相当量かけて、自分だから書けた記事だという大きな達成感をこのとき得ました。

2017年に大阪の社会部に配属され、事件、事故、政治、地域…あらゆるニュースを取り扱いました。

大阪は多国籍な人達が暮らし、街が混沌としているのが面白かったですね。自分のアイデンティティやルーツと向き合いながら取材ができるのでは、と在日コリアンが多く暮らす地域に通うようになりました。

地方の在日コリアンは、名前を日本風にしたり、日本国籍にしたりと可視化されないことが多いです。大阪では、在日コリアンの数が多いというのもあり、皆パワフルに暮らしていました。彼らは、日本在住歴が長く、日本の制度、歴史、文化を理解し、日本語も話せる上で、外国人の生きにくさも理解しています。その強みを活かし、日本に入ってきたばかりの外国人をサポートする、良い流れがありました。

香川でも現在、丸亀市で外国出身の子どもは増加しており、授業の理解に苦労する子どもは多いです。ボランティアの方々が日本語教室をやっていて、継続的に取材してきました。ボランティアが高齢化しており、若い人の関心を集め、持続可能にしていくことが今後の課題です。取り上げることで、多くの人に考えてもらうきっかけになればと思っています。

香川へは、2019年4月に異動しました。いつも、奇をてらった記事を書こうとは思っていません。既に他社で取り上げられたものでも、気になる内容は取材に行きます。私が取材をするから聞ける話、自分の目線で記事化したからこそ伝わることが必ずあると信じています。一つのニュースでも、マイノリティという視点から何か書けないか、と常に考えていますね。

最近だと、聴覚障害者の学生がコロナ禍のオンライン授業で苦労している、という記事を書きました。一般的に話題に上っていることですが、改めて香川ではどうなのか知りたかったし、香川にも当事者がいて、身近な問題であることを伝える意図がありました。

過去に取材をした子ども食堂を運営している岡さん(毎日新聞社記事瀬戸内通信社記事)から瀬戸内通信社のことを聞き小林さんを取材し、瀬戸内通信社を見て高松のライブハウス(毎日新聞社記事瀬戸内通信社記事)の取材に行く、こういったご縁で対象に巡り合うこともあります。

取材で大切にしていることは沢山ありますが、大きくは二つあります。一点目は、感動を失わないようにすること。経験を積むと、どうしても感動が薄れてしまいます。しかし、記者は自分が感動しないと、何も始まりません。感性は入社当時と変わらないようにみずみずしく、また、先入観を持たないようニュートラルな状態で取材に挑んでいます。

二点目は、その人の気持ちは、本人にしかわからないということを前提に取材し、記事を書くということ。どんな取材でも、私は話を聞いているにすぎず、その人の本質的な苦しさを理解することや、その人の気持ちに達することは不可能です。言葉にはならないような気持ちもあるでしょう。それでも、想像の限りを尽くします。

記事には形式的な部分があり、無自覚にいつもの流れに落ち着く、ということが起こりやすいです。流れがいい、おさまりがいい、と本人の発言を不必要に捻じ曲げないよう留意しています。また、マイノリティとして一つに括るのではなく、生きてきた背景や考え方は千差万別であり、「その人がどうなのか」を捉えるように心掛けています。

「障害を乗り越えて」、そういった言葉は極力使いたくないです。本人にとっては今起こっている現実であり、それと向き合い、前を向いている最中であり、人生そのものなんです。こう考えるようになったのは、取材で出会った方から「 “引きこもりを乗り越えて” と言われると、まるで引きこもり時代を否定されたように感じる。行きたくないから行かなかっただけなのに」と聞き、メディアってわかり易い文脈にしがちなんだと、はっとしたことが大きいです。安直な言葉で読み手の意識を引っ張らないよう、なるべく対象者の想いに近づけるように努めています。

そのためには、想像するしかない。「本人じゃないのだからわからない」ということを知ることが最初の一歩で、わからないから調べて、想像して、考えます。経験を積むと、その作業が疎かになりがちです。理解したつもりになった途端にすべてがダメになる。知らないなら聞くしかない。自分は知らない、ということを自覚し続け、教えていただく。これが記者の基本だと考えています。

今後も、光があたりにくいけれど大切だと思う事、他の人があまり取り上げないようなことの中から伝えるべきことを見つけていきたいです。それが伝える仕事に就いている自分の使命ですから。

金 志尚(きん ゆきなお)
1984年生まれ、東京都出身。2007年毎日新聞社入社。滋賀、島根、石川、大阪などを経て2019年4月に高松支局勤務。マイノリティーをテーマに取材を続ける。在日コリアン3世。ミニシアターが好き。

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、ミヤモト惣菜店広報&BARタイム担当など、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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