いつかまた、音楽が鳴り響く街に/海堀賢太郎さん(高松MONSTER)

新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けたライブハウス。その一つ、高松MONSTERでは存続に向けてクラウドファンディングで支援を募っています。店長の海堀さんにお話を伺いました。

海堀さんからお聞きしたのは、「ライブハウスの収入はゼロ、そんな状態が一カ月以上続いています」というショッキングな状況。2020年2月の後半からじわじわと影響が出て、現在は5月末までの全てのライブやイベントが延期に。「いつか開催してほしい」という思いから従来の延期手数料を取っておらず、現時点で中止になったものはないのだそう。

高松MONSTER は四国最大級の広さを誇るライブハウスで、毎週末のようにライブが開催されていました。満員の高松MONSTERの熱気は、こちらの写真のとおり。

写真提供:高松MONSTER

取材では、実質休業中の高松MONSTERを訪れました。音のない、誰もいないライブハウスはまるで時が止まってしまったよう。

空っぽの高松MONSTER

延期が立て続けに決まった頃に、スタッフからクラウドファンディングを勧められるも「助けてくれ、というのはかっこ悪い」と考えていた海堀さん。そんな中、非常事態宣言、高まる自粛ムード……ライブハウス再開の目途が全く見えない中、もうかっこ悪いなんて言えなくなった。とにかく大急ぎでスタートさせたのが、こちらのクラウドファンディング。

「僕は人付き合いが良い方じゃないし、打ち上げもたまにしか行かない。そんな僕が助けと言ったところで、支援がたくさん集まるとは思ってなかったんです」

蓋を開けてみると、「ライブに行ったことがあるから」「大好きな箱だから」「行ったことないけど、応援しています」そんな応援メッセージと共に支援が数多く集まりました。(編集部注:POLYSICSやUDONプロレス、STU48と多種多様なアーティストも応援メッセージを寄せています。)

「こんなにもこの場所を必要としてくれとったんやな、と気合いが入りました。なんとかしてこの場所を残そうと意識が変わりましたね」 

クラウドファンディングのリターン品も日々追加し、活動報告は毎日アップしている。高松MONSTERの一カ月の固定費は最低でも約70万円。自粛ムードが解消されたとしても、ライブハウスを営業できるようになるのは時間がかかるんじゃないかという不安もある。現在目標の200万円を超えてはいるものの、引き続き支援のお願いをしています。

「ライブハウスって、生活するのになくても困らないじゃないですか。でも、この騒動が収束したときに、みんなの下がったテンションを上げるのは音楽の力、アーティストの力。それを全力でバックアップできるのって、ライブハウスなんです。その日のために、この場所を残したいんです」

このクラウドファンディングには、海堀さんと親しいアーティストからの応援メッセージやリターン品が数多く並んでいます。この場所が愛されている秘密は、海堀さんにもありました。海堀さんは元々バンドマンだった経験から、ライブやイベントには必ず立ち会うことを大切にしています。これまで立ち会えなかったのは、9年間で2回だけ。

「出演者に『どうでした?』って聞かれたときに、どうだったのかちゃんと伝えたいんです。事務所のモニターで見るだけじゃわかんないんですよ。ライブは絶対に生で観て、聴いて。それを大切にしています」

海堀さんにとって、音楽はどんな存在なのかを聞いてみました。

「僕自身は、音楽は生活に絶対必要なものだと思っています。子どものころから片耳の聴力がゼロだったことから、ボコボコに殴られるような、ひどいいじめを受けていました。友達もおらず、学校が終わったらすぐ帰る。毎日は曇り空のようで、楽しい気持ちにはなれなかったですね」

そんな中、高校で出会った子にバンドに誘われ、ドラムをやることに。

「初めて仲間とライブをやった時に、自分の世界が一変するような経験をしました。お客さんの中には、僕をいじめていた子、オタクっぽい子、自分とは縁のなさそうなおしゃれな人。自分の刻む音に乗って、お客さんが揺れる。バラバラの人たちが、ひとつになるんですよね。自分の音楽がみんなをひとつにしていることに、胸が熱くなりました」

「バンドを始めたことで、音楽という共通の話で盛り上がったり、友達ができたことはもちろん、それまで縁がなかったバレンタインにチョコを貰ったり、彼女ができたり。音楽を始めたその日から、人生が変わったんです。音楽ってすごいな。こんなに何もかもが変わるんやって。その頃の感動、喜びが自分の中にずっとあります。自分が信じた音楽は、何があっても絶対に裏切らないんですよ。ライブハウスは、その音楽が鳴る場所です。またここで、いっぱいの音を鳴らしたいです」

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自分の暮らす町や、日常を彩っていたものはなんだろうか。 灯りの少ない夜、当たり前にあった風景を思い浮かべると、自分にとって大切なものが浮かんできます。大切なものを守るのは、自分自身のちょっとしたアクションなのかもしれません。今はいろんな形でサポートする方法があります。ぜひ一度、調べてみてください。
高松MONSTERのクラウドファンディングは5月11日まで。
https://camp-fire.jp/projects/view/256644

海堀 賢太郎
1975年生まれ、香川県高松市出身。音楽で食べていこうと横浜に出るも、夢破れて高松へUターン。ライブハウス高松MONSTER店長。ドドドRECORDS代表。FM高松にて「ケンタロックのネクストジェネレーションズ」(毎月第一水曜日16:50〜) 、「だけんどしたんや!リターンズ」(隔週火曜日22:00〜)のパーソナリティ。現在もドラムを叩く。一児の父。
Twitter

高松MONSTER
2011年にオープンした香川・高松にあるライブハウス。四国最大級の広さを誇り、ライブ以外にもダンス、演劇、お笑いライブ、UDONプロレスなど幅広く利用され愛されている。ことでん瓦町駅徒歩1分。
香川県高松市瓦町2丁目6-14
087-813-1569
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*記事の内容は、掲載時点のものです

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に香川県高松市へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、広報サポートなど、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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