すぐに飲み込めない、ほんまなんかなって考えちゃうんです。

高松で開催されたトークイベントで、カフェ「半空(なかぞら)」の店主岡田さんが話していた「SNSのいいねの数よりも、誰かに届く“1”が大事」というのが印象的だった。その話はじわじわと私の中に残り続け、何度か自分を励ましてきた。岡田さんとゆっくり話してみたくて、半空に紅茶を飲みに行ってきた。

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——岡田さんの思う「1が大事」について、改めてお聞きしたいです。

例えばYouTubeでやっている【半空ラジオ】の話になった時、お客さんから「夕食準備しながら聞くことが多いんです」と言われたら、それってすごいことだと感じるんです。誰かの生活の中で、夕食を作る時間の側に自分たちのラジオがある。次に収録するときは、夕食作りをしているその人の横で何を話そうか、って考えますね。

いいねの「1」という数値に騙されちゃいけないんです。10、20とカウントできる記号ではなく、いいねを押した誰かがいて、その人がどうして押してくれたのか、どんなことを考えているのか。そういうことを考えることの方が、いいねが何個ついたかよりも大事だと思うんです。

——なるほど。そう考えるようになったのは?

うーん、逆に、大多数に向けて考えることができないのかもしれない。ラジオの仕事で「40代の女性に向けて話してください」と言われても、できないんです。でも、自分の知っている40代女性の誰かを思い浮かべて話すことはできます。小林さんは、文章を書くときにどう設定して書いているんですか?僕だったら「あいつに向けて」と考えながら書くなと。

——瀬戸内通信社で書くときは、ターゲットを意識していないです。でも、書いている最中は無意識なのに、後から「これは私が聞きたい言葉だったんだ」と気づくことが、最近よくあります。なので、取材中は自分が読みたいことを探しているのかもしれないです。

読んだ人もそうなんじゃないかな。僕もそれが聞きたかったんだ、っていう人がいる気がする。

——そうだとうれしいです。閲覧者数を見るだけでは、読んでくれた人への実感がどうしても希薄になるときがあります。そんな中、記事を読んで行動変容が起こったとか、私はこう考えたとか、そういうことを聞けたとき、「誰かが読んでくれている」という手応えがあるし、多分それを目指しているんだと思います。

わかります。でも、それがいいねや閲覧者数「2」のうちの「1」っていうのはなかなか実感がないですよね。スタッフから「インスタのインサイトを見たほうがいいですよ、いろいろわかりますよ」と教えてもらったけれど、……ぐっとこんなーと(笑)。

それよりも、「レコード屋でたまたま半空の昔の投稿を思い出して、このレコード探して買ったんや」なんて言ってもらえることの方が僕には大きい。そんな前のことを覚えていてくれて、その人の購入のきっかけになったんや、お店の中で一枚一枚探したりしたんかな、って。そういう人がSNSを見てくれるかもしれない、さあ何を書こうか、っていう気持ちはあります。

——岡田さんは、どんな子どもだったんですか?

小学生の頃は、「友達100人もいるんかな?」ってよく考えていました。「友達」をどう考えるのかにもよるけれど、100人もおったら日常生活どうなるんやろ、なんて想像して。僕にそんな人気が出たら嫉妬やら、取り合いが起こるんだろうか。クラスの雰囲気を見て、いやほんまにありうるか100人……って思ってた(笑)。

性格なんでしょうね、気になるし、すぐに飲み込めない。「100人友達いることは良いことです」と言われたら、「本当にそうなのか考えてみよう」から始まるんです。つい考えちゃうのは子供の頃からでした。性格なのかな。

いまだにひっかかってるんですけど、3+2=5っていうけど、3本の人参と2個の卵って、別々のものなのに一緒くたに数えられるんかな、そんなものが世の中にあるんかな、とか。ここに3人いても、「3」じゃなくて実際は個々じゃないですか。納得できんのやろうな……考えてしまうんです。

——そうなんですか……!これまで、言われたまま何も考えずに受け入れていました。お店を経営していると、客単価を計算するようなこともあると思うのですが。

やってないですね。お店に一日何人お客さんが来て、客単価がいくらとか、一人ひとりを同じようにカウントすることができないんです。でも、月単位の売上や原価は計算して、気になることは細かくチェックして軌道修正することはあります。ただ、それは自分の都合なので、メニューや値段などを決めるときは一度視点を変えます。自分はこの店と関係のない人として、たくさんシュミレーションしてみるんです。

例えば、たまたまこの店に入ったとき、メニューを見てどう思うか。デート前に早く着いて、ちょっとお腹空いたなとフードを頼んでから恋人とお茶して、二人分会計したときにどう思うか。眠れない夜に、お酒を一杯だけ飲みたいと訪れて、どう感じるか。とにかくいろんな設定を具体的に考える、その上で自分の都合も含めてどうするのかを決める感じです。

——なんだか、客単価で考えるより難しそう。

そうかもしれないですね。実は、メニューや値段は頻繁に変わっているんです。僕のシュミレーションが変わるというか、お店にいる中で気づいた違和感を観察し続けた結果、ふいに判断が変わることはあります。

——シュミレーションってすごく想像力が必要ですね。その源はどこから?

実際に会った人のことを、勝手に想像している感じです。よく来る大学生くらいのお客さん、あの人は方言がないから県外から香川大学に来たのかな。オンライン授業が多くて友達にも会えず、出会いが欲しい。恋人はいなくて、でも恋の苦さも最近あって……と勝手な想像をしています。その人がある日誰かを連れてきたら、なんで半空に来てくれたんだろう、何が必要かな、何をやったらだめだろうかと、正解はわからないけれど、考えてみます。

——だめなこと?

半空の常連であることを出した方がいいのか、とかですね。お店で喫煙できた頃は、常連さんが恋人と来たとき、いつものように灰皿を出さないようにしていました。「なんで灰皿出さないの?」ってお客さんに聞かれたら、すみませんと言うのは自分が負う。「この人はこうだ」と決めきることはしたくないし、そう定義することが苦手なんですよ。

もしかしたら今日は頭が痛いかもしれない、悩み事があるかもしれない、でもそんな想像が間違っているかもしれない。いいね10より目の前の1が大事だけれど、その1が同じ人でも、毎日違うんです。常にいろんなことが変わっているはず……いや変わっているかもしれない、だから考えていたいんです。スタッフには、間違えるのはいいけれど、考えないのはだめだと伝えています。

——考えるって難しいですね。考えたつもりでしかないこともあるし、願望が入ってしまったり。

そうですよね。最近、連日ファミレスに通っていたんですが、同じスタッフさんがタバコを吸うのか毎回聞いてくれたんです。僕は気が楽でした。個人で特定されていないことが良かったんです。あのおばちゃん、実はめちゃくちゃ考えてくれて、わざと聞いている達人かもしれない。

「タバコ吸いませんよね」と覚えくれることがうれしい人もいると思う。なんせ毎回わからない、いまだに。でもそれはずっと考えながらやりたいし、スタッフにもそうであってほしいです。

——大事なのはルールやマニュアルではなく、考え続けることなんですね。

そうですね。半空にはマニュアルがないので、みんなはやりにくいかもしれないです。スタッフから「こういう場合はどうするんですか」と聞かれたら、「どう思う?」って返して、考えを聞いたら「なんでそう思ったん?」と理由は聞くけれど、「うーんなるほど、僕も考えてみる」と答えを渡さないまま終わるんです(苦笑)。「そうか、よく考えたら私やったらこうだけど、相手は私じゃないしな……」といった感じで、考えてほしいんです。

マニュアルがない代わりに、みんなでたくさん話し合います。まだまだ僕も失敗するし、お互いの失敗から吸収し合うこともあります。スカッとしたわかりやすさはなく、いつも考えっぱなしになる。でも、必ず学ぶことがあると思います。

——何度も会った人でも今日のその人は初めて、そう考えるようになったのは?

うーん、一貫性を持たなくていい、と思っているところから来ているのかな。年始に一年の目標を持つのはいいけれど、それが足枷になるなら意味がないじゃないですか。途中で違うと思ったら、やめてしまえばいいんです。昨日と今日の発言の一貫性のために自分を曲げなくていい、でもそれは適当だからじゃないんです。決めたことを貫き通すために自分を縛るよりも、間違っていたかもという疑いの方が大事なんじゃないかと。

必要があれば「ごめん間違っていた」、と昨日までの自分をばっさり捨てればいい。人って、変化している方が健全で自然な気がします。過去と未来があって、そこに整合性がなくてもいいし、新しいその人と出会えているような気もするし。「さて今日どうする?」みたいに変わってもいいんじゃないかな。

——なんだか新しい感覚です。取材ではしっかり下調べをして、既出のことは聞かないようにという基本があるのですが、調べすぎるとどうしてもそれに引っ張られてしまうこともありました。でも、「毎日その人は違う」と思えば、向き合う感覚が変わる気がします。

準備とライブ感のバランスって、難しいですよね。わかります。

——ところで、スタッフのみなさんもSNSのいいねの数を見てないのですか?

知っておくのは大事とは伝えています。でも、例えば食べ物の投稿だと反応が多いからといって、そればかり投稿するのは違うかな。今思ったんですけど、SNSで数を重視していないというのは、物に対する深さが好き、というのもあるんかな……。

二冊あるのは、「死をポケットに入れて」チャールズ・ブコウスキー

この本は中学生の頃から20年以上、何回も読んでいます。いつも寝る前にめくって「はー」と思って寝る、そういう付き合いが好きなんやろうな。深い付き合いの中で、自分が変わったことがよくわかるんです。

良いと思ったところにはその時々で付箋を付けるんですが、時間と共に変わってくる。なんで今はここが良いと思うんだろう、「ああ、こういう経験があったやないか」と気づいたり。本を読んでいるようで、自分を考えるような時間なんです。昔ブックオフで100円で買ったんですが、最近もう一冊買って二冊あります。

——どうして同じ本を?

よくやりますけど、なんでですかね。本が変わったらまた違うものが読めると思っているのかな……。古いくたくたの本だから読み取れるものがあるのかもしれないし、逆にくたくたすぎて読み取れないものがあるのかもしれない。どっちにしろ、一つの本と長く付き合うことが好きなんだと思います。

コーヒーカップ、本、レコード。お店には、思い入れのあるものばかりを置いています。好きになってくれという意味ではなくて、お店を通して「僕はこんな感じなんや。みんなはどんな感じ?」そんなやりとりをしているのかもしれないです。

物そのものがどうなのか、というのに興味はないです。映画の良し悪しや映画史にとって……ではなく、あなたにとってどういう映画なのかを聞きたい。人と物の関係、その人がどう思ったのかが好きです。お店に来てくれた人から、そんな話を聴けるのを楽しみにしています。

 

岡田陽介
1981年 高松生まれ。20代で「半空」を開業。本を探すのは街の本屋。最近読み始めたのは「フェラ・クティ自伝」。趣味は散歩。日課は筋トレ。苦手なことはパソコン。2015年からは「半空文学賞」を主催。あまり釣れないけど、釣りが好きになった。

珈琲と本と音楽 半空
丁寧に淹れるハンドドリップのコーヒーがおいしい、本と音楽を軸にしたカフェ。店内に並ぶ本を手に取って一人ゆっくりするのも、誰かとお喋りをするにも、深夜にお酒を飲むのにも。珈琲やフルーツサンドなどのカフェメニューに加え、「伊丹十三の愛したギムレット」といった本にちなんだカクテルもメニューに並ぶ。

高松市瓦町1丁目10‐18北原ビル2F
・087-861-3070
・13:00-翌3:00、日曜のみ13:00ー24:00
・不定休(Facebookでご確認ください)
FacebookTwitterInstagram半空ラジオ

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に香川県高松市へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、広報サポートなど、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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