撮っているのは、光です。

岡山駅から電車で1時間ほどの津山駅で降り、バスに乗って約30分でたどり着く、奈義町現代美術館(※美術館は現在、新型コロナの影響により2022/3/6迄の予定で休館中)。

今回の目的は、作品と建物が半永久的に一体化した美術館に加え、美術館ギャラリーで開催されている映像作品展「ー零れ落ちた光を集めるー」を観ること。ウェブサイトでみた告知の画像になんだか心を奪われ、直感的に訪れた。

映像作品は20分の間、あえて無音にしているという。肉眼では見ることのできない、マクロレンズの世界。静寂の中に息づく、自然の生き物、植物の生命と光。その美しさに引き込まれ、在廊していた映像作家・井手豊さんに思わず話しかけた。

——映像は、いつから撮っていたのですか?

24歳頃から8mmフィルムで映像を撮っていたと思います。子供の頃から映画が好きで、なにか映画のようなものを撮ってみたかった。今とは違って、当時は人物を撮っていました。でも、自分は脚本を書くことやストーリーを組み立てることに興味が湧かなくて。例えば、大好きな映画『未知との遭遇』で僕が好きなのは、物語でも台詞でもなく、UFOが出てくるシーンそのものなんです。

——映像そのものが好きだったんですね。

そうなんです。それで、人物が出てきても物語のない、PVのようなものを作っていました。そんな作風のものを長くやっていましたが、2003年にスランプになり、10年近く作品が作れなくなって。その間は美術展やイベントなどの記録撮影の依頼をたくさんいただいたおかげで、なんとか続けてこられました。作品作りが復活したのは2013年です。今のように自然の中にいる虫や植物を、マクロレンズで撮影するようになりました。

——スランプになったのは、どうして?

人物を撮りたくなくなってきたというのもありますが、正直、ビデオの画質がずっと嫌いだったんです。説明が難しいですが、ギラギラ、ヌルヌルしているというか……。映像を撮るならそれしか方法がなくてやってきたものの、いよいよ嫌になっちゃった(苦笑)。

そんなときにレンズ交換式のデジタルカメラが出てきて、撮ってみたら画質がすごくきれいだったんですね。マクロレンズも安く手に入ったので使ってみたんです。人物以外に何を撮ろうかと考え、子供の頃から遊んでいた山にとりあえず行ってみて、マクロレンズの中を覗きました。

その瞬間、初めて見るマクロの世界に鳥肌が立ったのを覚えています。こんなに美しい画像が撮れるんだと、衝撃的でした。ああ、これが見たかったんだ、これが撮りたい映像だったんだと確信しました。

——その時に見えたものは?

抽象的なんですけど、光景の美しさです。木漏れ日の感じや光の揺らめき、その中にいる虫……そういうものに感動しました。私は映像で何かを訴えたいとか、テーマとか、そういうものはないんです。撮影しに行って、その場で感じたものを撮る、ただそれだけ。自然を大切にしようと思ってはいるけど、作品にそういった主張はないです。

——マクロレンズと肉眼で見えるものは全く違いますよね、どうやって撮りたいものを見つけるんですか?

肉眼でこれかな?と思うものにカメラを向けて寄っていき、自分に刺さるものを探している感じです。視界に入っているものを認知しているときって、これがあるというだけで、わざわざそこにズームしようとは思わないですよね。でも、マクロレンズを通して世界を見ると、見えないものが見えてくるんです。

時間はかかります。でも、何かを撮ろうと自然の中をうろうろしているだけでも楽しいんです。1カットは30〜60秒で、本番で使うのは15秒ほど。一日あたり最低でも2、3カットは撮れます。つまり、1日中カメラを回しても3分しか撮れないこともあるんです。でも、なにかをみつけたときの喜びの方が断然大きい。撮れなくてもいいや、くらいの気持ちで撮影しに出かけています。

——2013年にマクロレンズを始めてからこれまでに、撮りたいものは変化してきましたか?

初期は、形の面白さに惹かれてよく虫を撮っていました。それを続けていたら、自分が本当に撮りたいものは光なんだと気が付きました。白い壁に木漏れ日がゆらゆらしているようなものではなくて、自然の中に虫がぽんといて、周りに木漏れ日がわーっとある、そういう画が好きですね。

——井手さんの映像を拝見して、光ってこんなにもいろんな姿をしているのかと、知っていたつもりだけど気づいてなかった姿に見とれました。光は、そこにあるはずなのに捉えどころがない。その捉えどころのないものが表れてる印象が強かったです。ところで、今回の作品では、生命力を感じる小さな生き物の姿と、朽ち果てた木の葉、死んでいるクワガタムシなど、真逆のものが共存していましたね。

私にとってはどちらも美しいと感じるものでした。自然に入って美しいと思った光景だけを集めた、それだけなんです。

——万人に理解される美しさもあるし、グロテスクなものの中に美を発見することもある。人それぞれの感性だと思いますが、「美しい」って、なんでしょうか?

僕にとっては、宇宙を感じるもの、それだけかな……。撮った映像は、自分にとっての宇宙のようなもの。マクロレンズを通して見るカビだらけのキノコにも美しさを見つけ、宇宙を感じてしまうことがあります。

——映像を撮るときの衝動は「美しい、捉えたい」それだけ?

そうですね。

——普段はチェーンソーなど、林業や造園用の機器の販売や修理をするお店をされているんですね。仕事も楽しいですか?

楽しくはないですね(苦笑)、淡々とやるべきことをやっている感じです。

——楽しくないことを続けるのは平気なんですか?

平気じゃないけど、家族もいるし辞めるわけにはいかない(苦笑)。妻は応援してくれているけれど、特別映像に興味があるわけじゃないみたい。でも、作品の編集が終わったら、必ず妻に確認してもらいます。ここがよくわからないとか、違和感があるとか、その意見に合わせて修正しています。僕とは違う視点を持っていて、作品作りの貴重な意見になっています。

——仕事と週末の映像作品作り、それぞれの相互作用はありますか?

ないですね、全く別のものです。日中の仕事は生活のためだけど、映像は本当にやりたいことを大事にしています。映像では自分の作品作りとは別に、依頼を受けて撮影をすることもあります。劇団の公演、アマチュアバンドのPV、美術館でのイベント記録など、そういうものを撮影するときは、依頼してくれた人が喜んでくれるものを作るようにしています。

高校を中退してから家業である今の仕事を始める30代後半までは、ずっとアルバイトをしながら映像を撮っていました。映像で仕事ができたら良かったけれど、なかなかそうもいかなくて。映像以外にやりたいことが思いつかず、いろんなアルバイトをしてもピンとくるものがありませんでした。

経験した仕事の中で何かを本業にすべきだったのかもしれないけれど、自分の中の「好き」を優先してきました。でも、それで悩んだことも、不安に思ったこともなかったです。若い頃漠然と考えていた「映像の仕事に就きたい」という思いは、年を取るにしたがって、自然と消えていきましたね。それは、自分がこれだと思うものを撮り続けてこれたからかもしれません。

作品は作っていたけれど、何か行動をしていたわけではないんです。「本気でやる気ある?」と言われてもいいくらい漠然としていました。不安がなかったのは、そこまで考えてなかったからだと思います(苦笑)。

——自分の作品を、いろんな人に見てほしいという欲求は?

ないです。語弊を恐れずに言うと、自分がやりたいだけなんです。見てくれた方に良かったよと言っていただけるのはすごくうれしいですが、それが目的ではないです。自分が作りたくて作っている、本当にそれだけ。大変でしょう、と言ってもらうことがありますが、なんにも大変じゃないんです(笑)。だから、ずっと続けていくと思います。
(マクロレンズ写真提供:井手豊)

井手 豊

映像作家。1965年岡山県津山市に生まれる。津山市在住。1989年より映像作品の発表を始める。個人の映像作品ではマクロレンズを通した自然世界の美しさを捉え続ける。作品制作以外にも、奈義町現代美術館展覧会をはじめとする地域のアートイベントや文化遺産の記録映像制作、地域のミュージシャンのPV制作などに携わる。仕事が休みの週末に撮影を行い、よく撮影しに訪れる岡山県内の場所は岡山県自然保護センター岡山県立森林公園、丹後山(鶴山公園から宮川を挟んだ向かい側の山の通称)。
2001年山下三味子氏(珍しいキノコ舞踊団)と短編映像を制作。
2012年第1回美作市映像大賞にて「みまさかけはい」優秀賞受賞。
2013年おかやま県民文化祭地域フェスティバル事業「美つくりの里・旅するアート2013」にて短編映像作品を出品。

-零れ落ちた光を集める- 井手豊映像作品展

<こちらの作品展は終了しました>
約1年かけて撮影した小さな生き物、植物たちの命、その光をマクロレンズでとらえた約20分の映像作品を展示。あえて無音にした映像は、観ている者の想像力を引き出してくれる。新型コロナウイルス感染症拡散防止のため、会場の奈義町現代美術館は3/6まで休館することとなりました。併せてこちらの作品展は終了となりました(2022/2/21追記)。最新情報は奈義町現代美術館にてご確認ください。

https://www.town.nagi.okayama.jp/moca/

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に香川県高松市へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、広報サポートなど、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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