選べる未来を、大人がつくる

「居場所」と聞くと幅広い意味があり、捉え方は人によって違うところがあるのではないでしょうか。正直なところ、私自身もよくわかってないところがあります。高松市にある居場所の一つ「まなびやもも」(以下「もも」)を運営する伊澤貴大さん・絵理子さんご夫婦にお話を聞きながら、この社会に必要な場所について、「居場所」について考えました。

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絵理子さんは大学卒業後に県外で教師として働いていたが、家庭の事情で香川へUターン。様々なアルバイトをしながら暮らすも、「やっぱり子どもたちと関わりたい」と香川で再び教師の道へ。しかし、思うように子どもたちと関われない日々にジレンマを感じていた。

「学校の教育現場というものが合わなかったんだと思います。子どもたちひとり一人との関りを最優先したくても、そうもいかないところがありました。教師にはやるべきことが数多くあり、最後に時間があったら家庭訪問、一人の不登校児よりも残り37人の生徒を中心に考える、という暗黙のルールのような空気があり、違和感がありました。他の先生のようにうまく立ち回れないことに、生きづらさも感じていましたね」

「そんな中、入院療養している児童生徒のための院内学級を受け持つことになって。初めて子どもたちひとり一人とじっくり向き合え、子どもたちのすばらしさを日々見つめることができました。また、病院内で特例的に受験できるよう調整した経験は、子どもの力を発揮できる環境を作るのは我々大人なんだ、と気づくターニングポイントになりました」

「その頃、中学生だった弟が不登校になりました。学校の別室や公的な教育支援施設、フリースクールに通うのも厳しい状態で、弟に合う場所を見つけられなかったんです。ずっと家にいる状態からせっかく外の世界へ踏み出そうとしたのに、合う場所がなくて振り出しに戻ってしまう。それって本当にどうしようもないことなのかと考えて…」

同じように自分に合う場所を探し求めている子どもがいるんじゃないか。ないのなら自分たちで作ろう、と居場所の運営を2018年にスタート。この居場所で大切にしたことは、安心して寛げる雰囲気、少人数制、やるべきことのない自由な空間であること。わいわい話す、一人でゆっくり本を読む、ごろんと寝転んでぼーっとする…皆思い思いに過ごしています。誰にでも気軽に訪れてほしいと考え、居場所の利用は無料です。

「ずっと家にいた子にとって、外に出ることってすごく勇気のいる場合もあります。振り絞ったその一歩を少しでもサポートできる場、安心して過ごせる場になるよう心掛けています。また、勇気を出して外に出た子どもに、 “こんな時間にどこ行くの?” ではなく、 “ももに行くのね、気つけて” と見守ってくれる地域の方々の存在は大きいですね」(貴大さん)

地域住民とのスタディツアーの様子/まなびやもも提供

住宅街にあるももは、もともと祖父母の家ではあるものの、この土地にゆかりのなかった2人。居場所には地域の温かい見守りが不可欠と考え、開所前から地域の交流会で「こんな居場所を作ろうと思っている」と伝え続けていくうちに、地域の方々も関心を持つように。最近ではなにか協力しようか、と声を掛けてくれる心強い存在だ。ワークショップや週末の居場所開放では、地域のコミュニティとして近所の子どもや大人も集い、お互いが不登校かどうかを意識せず一緒に遊んでいるという。また、ももには学習塾という別の顔も。

「学校に行きたいと思っても、次のハードルとして勉強がでてきます。特に中学校以降の学習は積み重ねで、ついていけなくなってしまうことも。子どもの希望に合わせて、精神面でのサポートを重視した個別指導の学習塾を運営しています」(絵理子さん)

学校に行かない選択をした子どもに立ちはだかる様々なハードル。それらを一つずつ取り除き、子どもが自ら望む世界で心地よく、自分らしく生きていけたら。ももの活動の根底に、そんな思いを感じました。

「一つの場所に居場所、地域のコミュニティ、塾と複数の役割を持たせたのは、弟から “不登校の子たちが行く居場所にいる子と思われたくない” と言われたことが大きいです。 “居場所に行く” ではなく、 “ももに行く” というポジティブな感覚を持ってもらえたら」(絵理子さん)

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ももでは体験活動、キャリア支援、教育支援、地域交流と様々な活動があります。将来について考えるキャリア支援の一環「ももカレッジ」は、様々な職業のゲストと子どもたちが対話するイベント。

「学校の職場体験や社会見学に参加していないことで、将来を描きにくくなることもあります。子どもから “美大やデザイン系の専門学校に行きたいから、出身の人の話を聞いてみたい!” と声があり、友人2人に来てもらいました。少人数制で、大人が自分の問いに直接答え、自分の描いた作品を見てアドバイスをくれる。子どもたちがすごく喜んでくれて、これをきっかけにももカレッジが始まりました」(絵理子さん)

ももカレッジの様子/まなびやもも提供

初めの頃は自分の興味ある回に来ていた子どもたちも、次第に毎回参加するように。立派に見える大人も、実は自分と同じようにもがきながら生きている。多様な大人たちから仕事やこれまでの人生について聞ける機会は、将来を考える一助になり、子どもと社会を繋いでいます。

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不登校の子どもが自分のやりたいこと、進みたい道をみつけたときに、困難が待ち受けているのも事実です。高校進学を希望したときに、出席認定の関係上どうしても選択肢が限られてしまうこともあります。法改正が進み、フリースクールや民間の居場所での学習を出席認定とする動きはあるものの、まだまだハードルは高く、香川県では実績が殆ど無い状態です。

「出席認定は、私たちがアプローチしていくべき課題です。どんな状況でも、子ども自身がどうしたいのかを選べる環境にしていくことが私たち大人の役目。本人から学校との連携や出席認定の希望があったときは、学校や教育委員会、教育支援センターに出向くこともあります。ももの活動を伝え、どんなことをしているのか知ってもらう地道な働きかけから始まります。これまで、ももでの活動を出席認定してくださった学校が坂出市に2つあります。先生方も非常に協力的で、関わる大人全員が “この子が頑張ろうとしてるんだから、なんとかしよう” と同じ気持ちを持っていたことで達成できました」(絵理子さん)

「都内では様々な認定ケースがありますが、地方では自治体にもよってなかなか難しいところがあります。教育委員会、行政、学校とそれぞれ組織や体系が分かれており、連携が難しいことや、踏み込めない領域もあります。でも、そこで歩みを止めるのではなく、少しでもより良い連携ができるようにコミュニケーションや働きかけを続けていきます」(絵理子さん)

ももは香川県の “子ども・若者孤立化防止支援事業” として3年間の補助を受けているものの、年間40万円の補助での運営には限界があります。また、補助対象に人件費や食事代が充てられないこともあり、より子どもたちに向いた活動を、と考えるほどに壁が立ちはだかる。

「補助によって大きくサポート頂いていますし、初めてこの場所に来る方にとって、県の事業に選定されていることによる安心感・信頼感も大きいと思います。塾の経営は事業として分けており、居場所は補助金をメインに足りない分は自分たちの持ち出しで運営しています。別の仕事をしながらボランティアで居場所を運営しているイメージですね。2021年の3月には現在の補助が終了することもあり、今後どのような形で運営していくのか大きな課題の一つです」(貴大さん)

自分たちの生活を安定させてから始めないのか、と心配されることもあったという。自分の生活もままならないのに誰かのために動けるのか、という考え方もあります。それでも、これが今まさに自分たちがやりたいことだからと、課題を抱えながら走り続けてきた。

「この場所を使えるのはあと7年の予定です。少しずつ地域の方と関係性を構築してきた中で、数年後また別の場所でゼロから始めるのかという課題もあります。また、自分たちに何かあったら休みにせざるを得なかったり、もものお手伝いしてくれる方への謝礼、敷地内の離れを修繕して活用したいなど課題だらけなんですよね。ももで働きたいと連絡をくれる方もいますが、現在はボランティアやプロボノで活動してくれている方々に支えられています。これからも必要な人に届けたい、長く続けたいと思うと自分達だけでは限界があるので、活動に共鳴して参画・協力してもらえるよう、組織を強化しているところです」(貴大さん)

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「問い合わせてここに来るだけでも、ご本人も保護者の方もすごく勇気を使っているはずなんです。こんな小さな場所を見つけてここまで来てくれたことを思うと、来てくれた子どもたちとどんな時間にしよう、どんな経験を増やそう、どんな関わりをしていくのがいいんだろう、ってすごく考えます。ももが合わなかった場合も、相談してもらえたら他の場所をご紹介できるかもしれません。大事なのはうちに来ることではなく、その子に合う場所に巡り合うことです」(絵理子さん)

平成30年度の1000人当たりの不登校児童生徒数は過去最大で、小学生7人、中学生36.5人(文部科学省調査)。学校に行かないことがその子にとって必要な時間だとしたら、学校に行くこと以外の選択肢や、自分らしく過ごせる環境、どんな状況であっても子どもたちの希望、可能性をそのまま拡げられる社会を作ることが大事なんじゃないだろうか。その社会を作るのは、私たち大人の役目だ。そして、ももはそんな場所の一つだと感じました。

「復学が全てではありませんが、目標にしている子は多いです。この2年で、不登校状態だった20人近くの子どもがももから復学・進学しました。ももを巣立って高校進学した子が居場所に遊びにきて、不登校の頃のことや高校生活について語ってくれることもあります。土曜日の居場所開放には、学校に行くようになった子も遊びに来てくれます。こんな風に循環しながらももに関わってくれる子どもたちの姿も、とてもうれしいですね。子どもたちのご家族も、もものことを応援してくれていてとても有難いです。将来ここで働きたいから頑張って続けてな、と言ってくれる子もいて。彼らの帰る場所の一つとして、100年続けたいです」(絵理子さん)

まなびやもも
昼は居場所、夜は学習塾。地域とのつながりを大切に、みんなで子どもたちを見守り育てるまちを目指して活動している。
居場所について(一般社団法人もも)
不登校や進路についての不安・悩みを抱えているなど、様々な子どもが気軽に集い、安心してのびのびと自由に過ごせる場所です。通常は2、3人の参加者で、ゆったりと過ごせます。金・土は居場所を開放しており、近所の子どもたちなども含めて5、6人ほど集まります。自分のペースで行きたい時に行け、ワークショップや「ももカレッジ」だけに参加することも可能。それぞれに合わせた通所や復学の相談、他の居場所の紹介など、より良い方法を一緒に模索します。まずは一度お問い合わせください。
学習塾について
学校の授業がわからない、学校に行っていないが勉強はしておきたいなど、子どもたちの希望に合わせて進めます。勉強方法の指導、学校の授業サポート、高校受験対策などを実施しています。一人ひとりとの関わりを大切にし、精神面のサポートもしながら安心して学べる環境、関係づくりに取り組んでいます。
香川県高松市太田上町1287-6
・087-899-5340
・問い合わせ受付:月~土 13:00-21:00
・各SNSのDMでも問い合わせ可能です
・イベントや居場所解放など、毎月のカレンダーはHPでご確認ください
・新型コロナ対策として来所には事前の予約が必要です。ご協力お願い致します
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●寄付について
下記口座にて居場所ももへの寄付を受け付けています。寄付は居場所の運営費として活用されます。また、こちらからもオンラインで寄付が可能です。
https://syncable.biz/associate/momo
百十四銀行 太田支店(普通)0825068
一般社団法人もも

※参考
平成30年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」令和元年10月25日(文部科学省)
子ども・若者孤立化防止支援事業補助金交付要綱 (香川県)

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、ミヤモト惣菜店広報&BARタイム担当など、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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