つくるふたり おいしい往復書簡 5通目:ほうれん草

香川の農家さんと京都の料理家さんで交わされる、食材とレシピの往復書簡、5通目。農家・香川さんから、料理家・庄本さん宛に返事が届いた。
1通目サニーレタス
2通目サニーレタス焼
3通目オクラ
4通目焼きオクラの胡麻和え

庄本さん、こんにちは。
庄本さんが子供のころ、野菜たちはこの大地に生きる愛おしい植物であることを、オクラの花から衝撃と共に感じ取られたのですね。それが今の料理人庄本さんの原点となっていることが伝わってきました。

焼きオクラの胡麻和えは、今まで味わったことのない料理でした。料理を口にいれるとオクラの歯ごたえがしっかり。ごまの味が口の中に漂い、しばらくするとみりんのほんのりとした甘さがなんとも感じよく残るのですね。煮切りみりんも、オクラを焼くのも初めての体験でした。母がオクラの花を食べて、「あっ、オクラと同じ味がする」と驚いていましたよ。

母は90歳ですが、毎日元気で過ごしています。19歳で大家族の農家に嫁ぎ、今ではすっかりこの土地に根を張って暮らしています。母の代から育てているオクラもすっかりこの土地になじみ、毎年いっぱい実をつけてくれます。「昔の苦労話はぜずに、明るい話をするんだよ」とよく言う母は、色んな苦労をたくさんしているのだろうと思います。違う土地に移ってもたくましく大地に根を張るオクラと母が、重なって見えます。

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梅雨時期の畑、真夏の畑、と季節は流れ久しぶりに訪れた香川さんの畑。初秋のあたたかい午後は日差しはしっかりとあるものの、少しひんやりとした空気が頬にやわらかく当たる。今回の野菜は、ほうれん草です。

今年最初の収穫はほれぼれするようなほうれん草だったと顔をほころばせる香川さん。畑を見せて貰うと、凛々しい葉を広げたほうれん草が、私を見て!と言わんばかりに誇らしげな表情を見せている。

「思った通りの立派な大きさの、どこに出しても恥ずかしくないほうれん草が育ちました。収穫時期をずらす為に4回に分けて種まきしていて、今3回目の分が10センチ程に育っています。今のところは良い感じだけど、ほうれん草は途中から全然大きくならないことや、黄色くなってダメになってしまうがあるんです。気が気じゃないですね」

収穫目前のほうれん草が、日の光にかがやく

「2回目の種まきの分があまり大きく育ってないんです。肥料は遜色なく施しているし、どうして大きくならないのかなあ。今年同じ土にビーツを植えたから、土の質が変わったのかもしれないなんて予測していますが、それもまた次の年に条件を変えてやってみないとわからない。来年は他の畑でやってみようかな」

「うまくいかないときは、自分でじっくり考えることが多いです。人に聞いたり相談もせずに、思い込んだそのまま行くタイプなんです。だから結構回り道してることもあると思うけど、これが私の歩んできた道ですね。教科書に書いてあるのにわざと違うやり方をしたり、思い付きであれこれ試したり。失敗することが分かったので最近は教科書通りにやるようにしています(笑)」

10センチほどに育ったほうれん草。種まきから収穫までは約40日。

「ほうれん草は最初の年にすんなり上手に育てることができました。こんな簡単にできるのか、と思いきやビギナーズラックだったようで、翌年以降は全然だめ。案外育てるのが難しいんですよね。毎年挑戦するもなかなかうまくいかない中、去年ようやく見事に美味しそうなものが収穫できました。買っていただけるような野菜を作るには、失敗を含めた経験が必要ですね」

「ほうれん草は繊細でわがままで、すごく気難しい。しっかりと耕うんしたやわらかい畝(うね)を作って、ふかふかの土で寝かせてやらなくちゃきれいに育たない。葉っぱが大きくなって収穫を楽しみにしていると、収穫目前に葉がまっ黄色になることもあります。すごい裏切りですよね、それなら最初から大きくらならなきゃいいのにって、ショックですよ(苦笑)。味方にしようと思ったら土も肥料も十分研究してやらないといけない、手のかかる子です」

「野菜が好きな良い畑は、雨がすっと流れ、耕すとさらさらで柔らかい土の畑。土づくりの為に色々考えるけど、なかなかそこまで手が回らないときもあります。野菜作りに向かない畑は、たい肥をいれても固くて粘度が高く、雨が降ったらぬかるみ、乾くとかちかち。そんなときは土を選ばない夏場の野菜を植えるなど、畑の状態に合わせて何を作るのかを考えていきます」

「過去、初めて暑い時期にほうれん草の種まきをしたら害虫がすごくて、葉が穴だらけになったことがあります。良い葉をなんとか寄り分けて、申し訳ないような、心細い気持ちで出荷したのを覚えています。その半月後の種まきの分では唐辛子を焼酎に漬けた液体で虫よけをしたら、うまいこといきました。自信をもって出荷できるのはうれしいですね」

「一生懸命手入れしてきた野菜が害虫の被害で商品にならなくなるのは辛いですよ。でも、害虫は悪者ではなく、自然なもの。殺すのではなく、影響されないような栽培方法、根菜類などの害虫の被害が出ない野菜にシフトしてきました。そんな風に試行錯誤して休みの日の飲み代を稼いでいるわけです(笑)。ほうれん草って冬は出番が多いですよね。庄本さんのレシピを楽しみにしています」

自然と共生し、試行錯誤しながら育てる野菜たち。香川さんのほうれん草は緑色が濃く、葉はぱりっと分厚い。手がかかるほどにかわいい娘のようなほうれん草を、京都の庄本さんへお届けします。

香川 政雄
1951年香川県生まれ。60歳までメーカーの営業職として勤め上げる。定年退職後に香川県立農業大学校で一年間勉強した後、有機栽培のよしむら農園で自然農法を学ぶ。2012年から「かがわ農園」を始める。無理をして腰や膝を痛めた経験から「健康第一」を掲げ、無理なく農業を続ける生活を心がけている。「自分の野菜を食べた人に元気になってもらいたい」そんな思いから紫人参やパクチー、ビーツなどの野菜も作っています。香川さんの野菜は高松市内であれば春日水神市場SANUKISで購入可能です。(仕入れ状況により、販売が無い日もあります)

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、ミヤモト惣菜店広報&BARタイム担当など、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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