この島で生まれた。小豆島産原料だけのビール

高松からフェリーで約60分の小豆島。海のイメージが強いけれど、島の東側、坂手港へ降り立つと山の瑞々しい緑のうつくしさにはっとする。港から歩いて10分ほどの小高い場所にある「まめまめびーる」は、小豆島の地の実りを詰め込んだビールを2017年から醸造している。自由な発想で生み出されたビールは、これまで20種類ほど。このたび2021年6月、はじめて100%小豆島産原料だけでビールを造った中田さんを訪ねた。

中田さんは、「ビールがおいしく飲めるところに住んでビールを造ろう」と移住先を探し、大阪から小豆島に辿り着いた。小豆島といえばオリーブだと思っていたけれど、いざ住んでみると豊富な柑橘類に伝統食品の醤油と、ビールに掛け合わせる副原料(主原料である麦芽、ホップ、水以外の原料)の可能性は無限大。これまで、ちょっとしたきっかけから小豆島のいちごやレモンなどを副原料に、ビールを造ってきた。今回製造した全て小豆島産原料のビールは、いつから考えていたのだろうか。

「約5年前、小豆島に来てからできた夢ですね。これまで、副原料では小豆島産の原料を使用してきましたが、麦芽、ホップ、酵母は外国産のものを使用してきました。日々ビールを造っているなかで、素直に全部小豆島産でやってみたいと思ったんです」

ビールの主原料は麦芽、ホップ、水。今回はこの主原料に加え、酵母も小豆島産にこだわった。どれももともと小豆島に揃っていたわけではない。麦芽は、小豆島産の麦を使いたいと事業一年目の2017年から考え、「小豆島 陽当の里 伊喜末」の農家さんと契約して耕作放棄地を使い栽培を進めていた。初めて麦を収穫できた2018年、麦芽にするために栃木に送ったものの、ビール醸造に使える「製麦試験」の合格ラインである発芽95%には及ばす、80%程度に留まってしまった。

伊喜末で育つ麦/写真提供:中田さん

翌2019年は麦の収穫時期を遅らせ、天日干しを長くして水分を少なくし、休眠時間を長くすることが功を奏して発芽率は100%に。2019年5月に収穫し、全量を製麦したもの(麦の芽を出させ、目が出る前に止めたもの)が島に戻ってきたのは2020年の1月末。これでやっと一つ目の主原料、麦芽が完成となった。次は、ビールに苦味と香りをつけてくれるホップだ。

「ホップは苗から自分で育てていたものの、なかなか上手くいかなくて。ところが、島の農家さんに栽培をお願いしたら、面積あたりの収穫量がぐっと上がりました。麦芽もホップも順調なので、これはとうとう100%小豆島産原料のビールを造るときがきたなと」

収穫前のやわらかな色合いのホップ。口に含むと、独特の香りと苦みが広がる

「水は、小豆島の “ヒラク” さんの炭を使って浄化しました。塩素感が除去されて、滑らかな口当たりになります。その上、今回は酵母が活きるように水を酸性に導く炭を作っていただきました。酵母は小豆島の醤油メーカー “ヤマヒサ” さんが10年かけて開発を続けてきた【オリーブの花】酵母から【サッカロマイセスセレビジエ(お酒用の酵母)】が奇跡的にタイミング良く2020年に誕生し、そちらを使うことにしました」

中田さんが描いた100%小豆島産ビールは、さまざまな人たちと共に取り組むことで、2020年には全ての原材料を小豆島産で揃えるところまでたどり着いた。順調に見えるけれど、強い思いを持ち続け、常にアンテナを張って正解を探してきた中田さんの情熱があってこそのこと。例えば、酵母との出会いは、たまたま買物に行ったヤマヒサの店先で酵母を使用した商品と出会ったことがきっかけとなり、ヤマヒサさんとの付き合いが始まった。

原材料が揃った次のステップは、醸造だ。他のビールであれば、これまでのレシピを使って計算し、狙った味を目指して醸造してきたまめまめびーるだが、今回は全てが新しい組み合わせ。試作は2020年の6月からスタートするもなかなか思うようにいかず、試作のたびに原材料も減っていくため、緊張感と不安もあったという。

「本番醸造までに3回試作をしました。初回は酵母感が強く出すぎた上に、麦芽とホップの存在感が弱くなってしまいました。2回目の試作では麦芽とホップを強くしようと多めに入れてみたら、今度は糖分が上がりすぎてシロップジュースみたいになった挙句、とても苦く、アルコール感が強くなってしまって……」

「3回目は、糖分を抑えながらも麦芽感を出すために麦芽をローストし、量を元に戻しました。苦味は抑えながらも香りを引き立たせるためにホップを入れるタイミングを変え、醸造方法も手のかかる方法でやってみました。ところが、ローストしたせいかうまく糖分が下がらず、またもやシロップっぽくなり、香りもそんなに出なかったという結末に。そう簡単にはいかなかったですね」

ビールの醸造は、仕込みに8時間、そこからタンクでの発酵に約2週間。発酵終了後に樽に移して2、3ヶ月冷やして寝かせることで熟成する。苦みが弱まって旨味が増し、余分なものが沈殿してクリアになり、味わいは洗練されていく。中田さんは、「どんどんおいしくなるから、しっかり寝かせたい」のだそう。

「伊喜末の方やヤマヒサさん、妻、友人など周りの人に意見を求めつつ、3回の試作を経て『もうこうするしかない』というところまで行きついたので2021年2月に本番醸造に入りました。試作でホップを結構使ってしまったので、一回勝負ですね。うまくいくのかわからない、でももうこれ以外の配合はないだろう、きっとうまくいくと祈る思いで仕込みました。このとき味見をしたものが、どう変化するのかが面白いんです。ホップの香りを抑えて苦みだけを活かした配合で、酵母感が出すぎないよう低温で長期間発酵させました」

「発酵完了後に樽に詰める際、ビールの味が決まっています。味をチェックしたら、『これはいけるぞ』と思えるものでした。シンプルな原料だけに苦労した甲斐あって、うちのビールの中で抜群に飲みやすい、きれいなビールが完成しました。多くの人に好まれる味わいだと思います」

2021年6月12日、とうとう小豆島産原料100%のビール「SHODOSIMA100」がお披露目に。小豆島の伊喜末には、農家さん、地域の人、まめまめびーるが好きな人など、さまざまな人が集まり、このビールの完成を祝いました。

「SHODOSHIMA100」をお披露目した中田さん夫妻

「SHODOSHIMA100」は、アルコール度数6%とパンチがありながら、すっきりとした飲み口が心地よく、するりと飲める。その飲みやすさに、訪れた人の顔もほころぶ。中田さんの思いを知る人が、「やっとできたね、おめでとう」と声を掛ける姿もあった。

「ついにできたなっていう気持ちで一杯です。毎年毎年、今年こそはって言ってて、いつできんねんって自分でつっこみながら取り組んでいました。沢山の人に協力してもらった感謝と共に、お待たせしてしまったな、という気持ちもあります」

「今後は、毎年造ることでその年の味ができていくと感じています。麦の収穫を3年見ていますが、年によって毎年違います。ホップや麦のその時々の状態を見て、自分なりにこういう角度でやってみようっていうのは出てくるはず。毎年同じものを作るより、毎回違うものを作る方が面白いんです」

「今年の醸造量が少ないので、今後は増やしていけるようにしたいですね。ホップの収穫量が課題で、祈るしかないって感じなんですが(苦笑)、3年置きに株分けといって、根を切って増殖できるんです。それを繰り返していけば、何十年か先には通年醸造に必要な24kg以上のホップを収穫できる可能性はあります。継続していくことが大事ですね」

「まめまめびーる」のテラス席は、全身で島の空気感を味わえる

「ここで飲むビールがとにかくおいしいんです」と勧められるまま、中田さんの醸造場兼店舗のテラス席でビールをいただく。樹木が茂り、鳥の声と共に吹き抜ける風、季節の草花のざわめく音、広がる海と空。じんわりと汗ばんだ身体に、香り豊かなビールが染み渡る。全身でビールを味わっているみたい。3つの味が楽しめる呑み比べセットでは、島の柑橘が入った「あかまめまめ」が一番好み。口当たりやのど越しは爽やかだけど、どっしりとした存在感がある。それぞれの味わいの違いも面白い。

テラス席からは、坂手港が望む

まめまめびーるには定番の「あかまめまめ」「くろまめまめ」「しろまめまめ」「きんまめまめ」の4種類とは別に、その時々の出会いやひらめきから自由な発想で造る「ナカタペールシリーズ」があり、今回のSHODOSHIMA100もその一つ。

「いくつか種類がありますが、小豆島らしいものだとオリーブ果汁を使用した【i live olive】というビールがあります。オリーブオイル製造時にできる残渣の産廃は小豆島でずっと問題になっていて、さまざまな取り組みがあります。僕もなにかできることを、と造ったのがこのビール。微々たることですが、産業廃棄物問題に貢献しながらおいしいものが造れるって、なんかいいじゃないですか。オリーブ本来の苦みが前面にくる、深い味わいのビールが完成しました」

「レモンが豊作の年は、農園さんに『行き先がなかったら全部買いとります』って軽い気持ちで言ったら250kgもあって、どうしようか悩んだり(苦笑)。こうやって『どうしようかな?』って考えるのが好きなんです。定番のラインナップも、毎回少しずつ改良しています。冬は観光客が少なくてゆとりがあるので、レシピをあれこれ考えたくなるんですよね。試作してみて、そっちの方がおいしかったらレシピをがらっと変えることもありますよ」

とはいっても、ビールは一つ試作するのに、仕込むだけでも8時間、完成までは、数カ月。ときには何回も試作を重ねる。それを一人で続けるのは、大変じゃないのだろうか。

「めちゃくちゃ楽しいんですよ、これが。ビールを造るのも飲むのも大好きなので、幸せです。繁忙期は妻にサポートしてもらっていますが、それ以外はほとんど一人でやっているので瓶詰めやラベル貼りは地道で過酷です。でも、大好きなビールのことは、死ぬまでやりますよ」

中田 雅也
1983年、大阪府生まれ。大学時代に訪れたニューヨークでクラフトビールに魅了され、国内外のビールを飲み歩く。7年会社員として勤めた会社を退職し、1年間修行をした後に小豆島へ移住。2016年にビールの醸造を始める。小豆島のお気に入りビールスポットは、「ダイヤモンドビーチ」瀬戸の浜

まめまめびーる
小豆島・坂手の高台にある醸造所と併設の店舗。小さな醸造所では、1回200リットルの仕込み量で、数種類のビールを少量ずつ醸造しています。そんな醸造の様子をガラス越しに眺めながら、出来たての樽生ビールを味わうことができる。ビールがすすむ「塩麹の唐揚げ」などのおつまみやソフトドリンクも揃い、瓶ビールやオリジナルグッズも販売。「SHODOSHIMA100」は既に残数僅か、2021年度版は醸造所のみの販売で終了予定です。週末には坂手港で「きまぐれびーる屋台」を開店。営業は各SNSでご確認ください。(※まめまめびーるのビールは、酒税法上は「発泡酒」に分類されます)
香川県小豆郡小豆島坂手甲 769
0879-62-8670
FacebookInstagramホームページ

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、広報サポートなど、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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