つくるふたり おいしい往復書簡 一通目:サニーレタス

自然と家にいる時間が増えた今日この頃。自炊する機会が増えたけど、なんとなくいつもの食材で、なんとなくいつもの料理を作ってしまう。そういえば。去年の終わりに出会った京都在住の料理家、庄本彩美さんの顔が浮かぶ。私は毎年3回ほど京都を訪れる。高松から近いのに、旅行気分を味わえるうってつけの場所だ。庄本さんと出会ったのは岡山に遊びにいった時。「京都に行って庄本さんのお料理を食べたい!」と話していたのに、年明けから日々の忙しさに飲み込まれ、仕事が落ち着いたときにはコロナ禍が始まっていた。

京都に行きたい。彼女の料理を食べられるのはいつになるだろう。ふと、手紙のようにお料理を受け取りたい、と思った。こちらからも手紙を送って、文通にしたい。こちらからの手紙は香川の旬の野菜で。その返信は庄本さんの料理で。野菜と料理の往復書簡をはじめよう。

野菜は、定年退職後に農業を始めて9年になる香川さんにお願いすることにした。

今回は一通目。農家の香川さんと最初の野菜をご紹介します。

「かがわ農園」を営む香川さん

香川県三豊市で「かがわ農園」を営む香川さんは、69歳。会社員時代に「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則さんの書籍を読んで無化学肥料・無農薬の農業に興味を持つ。定年退職後は農業にするか、庭師になるか迷ったが、もともと自然が好きで「土を触っていると、なんだか気持ちがいい」のに加え、父親が農業をやっていたために道具一式もある、と60歳で農業の道へ。自然や環境に優しいことをしたいと考える香川さんは「虫も雑草も人間と同じ生き物、それを無視したり、敵とすることはしたくない」と化学肥料、化学消毒、除草剤を使わずに農業を続け、かがわ農園は有機JASの認定を受けている。

「最初は教えてもらったことしかわからないし、失敗しないと経験値って上がらない。始めたばかりの頃は虫の被害も結構多かったんですよ。虫に食われて穴だらけになったけど、消毒はしませんでしたね。あれこれやってみるんですよ、防虫ネットしたり。手間がかかるのはしんどいでしょ。いろんなことをやりながら、無理せずにうまくできる野菜を、と自然に今作っている種類になってきました」と香川さん。9年目の今は朝4時には起きて、6時には収穫や配達を始め、夕方17時には切り上げる。

「どうしても体力は落ちてきているんですよね。自分の健康一番で、無理をしないようにしています。作付けも最初より減らしていますね。お客さんに『おいしい!』って褒められた野菜ばっかり作っていて、良く褒められる人参が増えました(笑)」

「産直に並べると、泥がついていなかったり、姿形がきれいな野菜が売れるんですよね。人参なんかわかりやすくて、20センチのきれいな逆三角形を作ると、飛ぶように売れるんです。でも見た目がきれいだから、ではなくて『かがわ農園の野菜がおいしいから』と選んでもらえるようになったらうれしいですね」

5月の真夏のように暑い晴天の昼、香川さんに農園を案内してもらう。畑では野菜たちがみずみずしい表情を見せていました。

「常時収穫できるように、時期をずらして種植えをしています。いつも先を見据えて今やることを考える。畑を見ると3カ月先の絵が浮かぶんですよね、今私の頭の中に浮かぶのは夏野菜のある畑です」

去年通りやってもうまくいかない野菜もある。今も毎日、農法について勉強し続けている。

「夕方には畑から帰ってきて、母親と近所の温泉にいってリフレッシュ。夕食を食べた後には勉強、という毎日です。今は微生物で土を柔らかくする方法を本で勉強していますね。工夫してもう一つ良い野菜が作れるようになるとうれしいし、ああでもない、こうかもしれない、っていろいろやってみるのが面白いんですよ」

「5月から6月末くらいまでの旬は、うちの農園だとフリルレタス、サニーレタス、パクチー、ラディッシュ、人参かな。レタス類の収穫は、ちょうど来週になると思います」

畑の中できらきらと育つサニーレタス。庄本さんに送る一通目の野菜は、サニーレタスにしましょう、と2人で決めた。サニーレタスを有機栽培する苦労についてお聞きする。

太陽を浴びてきらきらと光るサニーレタス。旬は6月末くらいまで。

「そんなに苦労する野菜ではないんですが、最初は『べと病』というカビによる病気の一種があって、葉が腐ることに悩まされました。一般的な農法だと消毒するんですが、私は『えひめAI』という酵母菌類を発酵させた自然な液体で対策しています。農家仲間に相談して、アドバイスを元にいろいろと試してこの方法に行きつきました」

「私がサニーレタスを食べるときは、サラダかグリーンスムージーですね。スムージーには自分の作ったサニーレタスやきゅうりに、購入したリンゴやバナナを入れて。サラダはサニーレタスにビーツの赤い葉やラディッシュ、そこにパクチーをほんのちょっと入れたり。いろいろな野菜を入れると味の層が複雑になっておいしいし、彩りもいい。京都の料理家さんがどんな風に私の野菜をおいしくしてくれるのか、わくわくしています。野菜を出荷するときはいつも、自分が大事に育てた娘を嫁に出す心境です。いいところに嫁入りできたかな。嫁ぎ先の人に喜んでもらえるかな。とても心配しています。よろしくお願いいたします」

お手紙の代わりに、香川さんの作った、この凛々しいサニーレタスを京都へ。このサニーレタスが香川さんからの一通目です。

二通目:サニーレタス焼きの記事はこちら
 

香川 政雄
1951年香川県生まれ。60歳までメーカーの営業職として勤め上げる。定年退職後に香川県立農業大学校で一年間勉強した後、有機栽培のよしむら農園で自然農法を学ぶ。2012年から「かがわ農園」を始める。無理をして腰や膝を痛めた経験から「健康第一」を掲げ、無理なく農業を続ける生活を心がけている。「自分の野菜を食べた人に元気になってもらいたい」そんな思いから紫人参やパクチー、ビーツなどの野菜も作っています。香川さんの野菜は高松市内であれば春日水神市場SANUKISで購入可能です。(仕入れ状況により、販売が無い日もあります)

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、ミヤモト惣菜店広報&BARタイム担当など、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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