人が発酵し合う世界を、このお店から 

― 小豆島・ピザ職人 山本 友則さん―

3年ほど前に高松のピザ料理店で出会った、山本さん。高松のお店ではピリッとしてスマートな印象だったけど、小豆島で会う山本さんは、まろみがあって、なんだかゆったりとしている。「やりたいこと、思いっきりやりなよ」と、いつもやわらかく背中を押してくれる山本さん。ふと「ずっとピザを焼いていたの?」と聞くと、最初は岡山でレースの下着をデザインしていたと言われてびっくり。なんだか興味深くて、お話を聞いてみました。

ーー最初から飲食の世界ではなかったんですね。

高校の時から服飾の持つ世界観が好きで、最初は岡山のアパレルメーカーに就職しました。5年目には一つブランドの責任者としてブランディングに携わるようになって。イメージ作りの大切さや、世界観をどう具現化するのか、というのが面白くて没頭しました。30歳になった頃、一つ大きなミスをしてしまって。担当するラインで全体のブランディングからずれたコレクションを作ってしまったんです。

自分を俯瞰できてなかったり、若さゆえのエゴがあったと今なら思えるけど、ショックで頭が真っ白になりました。それまで走り続けていた緊張の糸が、ぷつっと切れちゃったんですよね。加えて、お客様と距離感のある日々の中では「自分の創ったブランドの世界観やデザインしたものが誰かに届く」という実感が得られなくて。年齢的にラストチャンスかな、とそれまで興味のあったパン職人に挑戦することにしたんです。

突拍子もない感じだけど、元々パンが好きで。仕事で東京に行った時なんかはパン屋巡りをしてました。岡山で大型パン店に入社すると、夜中の3時からパンを作り、夕方16時に帰宅する生活。想像以上にハードな生活だったけど、作ったものがお客様に直接届くのがうれしかったですね。

それでも1年ほど経つと、疑問を持つようになりました。5人ほどの製造チームで数種類の生地を作り、分刻みのスケジュールでパンを製造する毎日。種類が増えるほどチームは追い込まれ、ミスが許されない。この緊張感の中で大量に作り続けることに、「これが自分の好きなやり方なのか」と考えるようになって。「幅広くやるよりも、一つのことを突き詰めたい」って意識したのはこの頃ですね。それでも3年はやろうと続け、33歳でパン職人としてカフェに転職しました。

カフェでは提供するパンを任せてもらい、自分が置きたいパンを作れるのがうれしかったですね。3年程経った頃、社長が「カフェは辞めて、ピザ屋をやろうと思うんだけど、やってみない?」って声をかけてくれて、ピザ職人の道へ。「ホールもできて、お店全体をマネージメントできるのがピザ職人」という師匠の下、営業中はホールで接客、営業時間外に一からピザのことを教えてもらう日々。ピザはパンと違って手ごねで作ることが面白いし、生地が一つで、深堀してこだわれるのが自分には合ってましたね。3年目から時々お店を任されるようになりました。そして、新しくできるお店を任されることになり、高松へ。

高松のお店では、ピザを焼きながらカウンターのお客様の接客をしていました。そろそろちょっと甘いピザが食べたいんじゃないかな、とか、こんなドリンクが好きなんじゃないか、とお客様が求めていることをキャッチして提案できる面白さがありましたね。自分が創造したものが目の前の人に届き、その場でリアクションを受け取ることができる。 デザインの仕事をしていた時はあんなに遠かったことをリアルタイムで実感できて、充実していました。

――アパレルのデザイン、パン職人、ピザ職人と経たことで自分らしく働けるようになってきたんですね。高松から小豆島へ来た経緯は?

高松で暮らし始めてから、休日にロードバイクで小豆島を回るようになって。醤油蔵、地ビールの醸造家、農家さん、と食にまつわる場所や人をめぐりました。その頃、「発酵」に魅せられて勉強するようになって。人の目には見えないけど存在している、多様な菌の世界を意識するようになりました。

――店名の「kamos」も「醸す」から来ていて、発酵は山本さんにとってキーワードですよね。

自然界ではあるべき場所に生命体が存在し、必然的に環境が成立しています。人為的にその場所を変えると環境が合わず、腐ります。発酵って人間社会と似ている。人間は1センチ四方の皮膚に1兆個の微生物がいるといわれていて、「空気がおいしい」とか「相性がいい」っていうのは微生物的なマッチだと感じています。僕自身、小豆島にいるとなんだか心地よくて、いるだけで楽しい気持ちになる。「ここが自分のいる場所なんだ」と直感的に感じ、小豆島で暮らすことを考えるようになって。すると自然とご縁に恵まれ、今の物件にも出会い、2019年5月にpizza kamosをオープンしました。

ーーお店がオープンして約1年、最近の変化を教えてください。

新型コロナの影響で4月からテイクアウト営業をはじめ、6月からイートイン営業を再開しました。食パン販売は定期購入する方が多く、継続する予定です。テイクアウトで始めた「pizzand」(ピザ生地を使ったサンド)の可能性を感じていて、近々スタート予定のECサイトで販売したり、店の裏に新しく作るスペース「u ra ni wa」の主力にする予定です。

お店は3月にシンジ君、ユウ君という新たなメンバーが加わりました。シンジ君はSNS運用や、まもなく公開のホームページ、パッケージデザインなどのディレクション全般とホールを担当。ユウ君は料理人で、自分の店をやりたいと小豆島に来たときにシンジ君が連れてきてくれて。今はうちで「好きなものを作って!」とpizzandの具材や夜のメニューを任せています。夢を叶えるまでのステップにして貰いたいですね。

この2人をきっかけに、島内外で関わる人が増え、店内の装花や植栽、ホームページの開設やEC販売など、様々なことが充実していく予定です。型にはめてこの店の理想を作り上げるのではなく、理想がくにゃっとしていて、それぞれの得意分野で押し広げていくイメージで一緒にやっています。

最近思うのは、僕の思う発酵の世界はにじんだグラデーションだなって。一人一人の色があって、端の方は色が薄く、他の色と重なっている様が「醸して」いる。それぞれの色が最大限に出せる世界であってほしい。それには意識的に表現者になることが大事だと思っています。

「表現」って特別なことじゃなくて、自覚しているかどうかだと思います。選んだ服を着ること、誰かと話す言葉、仕事…それらはすべて表現の一つ。誰もが思い思いに表現できる世界を作っていきたい。それを身近なところで体現しているのがこのお店です。その表現をここで見て、感じてもらうことでお客様にも何か伝わり、また新たな表現のきっかけになる、この循環が僕の思う発酵で、pizza kamosではそんな風にやさしく、うつくしい世界を目指しています。

山本 友則(やまもと とものり)
1977年 三重県生まれ。ピザ職人、 pizza kamos 店主。大阪3年、岡山18年、高松2年と移り住み、2019年2月より小豆島在住。小豆島に遊びに来たときに「あ、しっくりきてる」と直感的に感じたまま、今も心地よく暮らしている。お店のサブアカウントで発酵を抽象化した表現に挑戦中。お店の焼き菓子やケーキは奥様が担当している。

pizza kamos
天然酵母で自家発酵した、生地そのものがしみじみとおいしいピザのお店。釜で一枚一枚焼いたピザは、カリっとしていながらもちもち。「旬のもの、地のものが一番おいしい」と旬や近場でとれる素材を大切にしている。土庄港まですぐ、ちょっと一杯飲むにも気軽に寄れるのがうれしい。今後はドリンクスタンドを併設した店裏のスペース「u ra ni wa」やEC販売を含めたホームページの開設、ギャラリー・トークイベントなどを展開予定。最新情報は各SNSでご確認ください。

香川県小豆郡土庄町甲 吉ヶ浦6190-80
0879-62-8731
LUNCH11:00-15:00、DINNER18:00-22:00
「u ra ni wa 」CAFE11:00-15:00
定休日:月・火+不定休(SNSでご確認ください)
InstagramFacebook

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、ミヤモト惣菜店広報&BARタイム担当など、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

Back to Top