旅するように、地元を楽しむ:3.中津万象園

庭園が好きだ。未訪だった丸亀の中津万象園(なかつばんしょうえん)に行ってみた。高松駅からJRで約50分。駅から15分程歩く。途中、浜街道を歩いてると久しぶりに海の匂いを感じた。香川は海が近いのに、すっかり海から遠のいていたことに気づく。

この庭園は絵画館、陶器館から成る丸亀美術館とセットで楽しめる。まずは絵画館で開催中の「川島猛展‐ I’m glad」へ。香川出身の川島猛の展示は、N.Yで猪熊弦一郎と親交があったことから、ここから近い丸亀市猪熊弦一郎現代美術館リオープンに合わせて開催中。今回は2001年の米同時多発テロ以降に作成した “カレイドスコープ(千変万華)” 、日本へ帰国後の “宇宙シリーズ” が展示されている。万象園と聞くと庭、というイメージが強く、アート鑑賞もできるとは知らなかった。こちらは8月30日まで。

絵画館を出て、順路通り邀月橋(ようげつばし)を渡る。万象園の外観からはこんなに広大な庭園があるとは想像していなかったので、橋の上からの奥深い景色に驚く。

この庭園は「池泉回遊式庭園」という形式。調べてみると「池泉庭園」とは、山、川、海といった自然の景色を凝縮した庭の様式で、「回遊式」はそれを順番通り楽しむこと。池はふつう海や川を表現するのだが、この庭園の中心の池は、琵琶湖を模したものだ。近江八景に見立てた8つの島を橋で結んでいる。島の名称は晴嵐、雪、夕映、となんだかロマンチック。スタッフの方によると、順番通りにまわるからこその魅力があるとのこと。また、順路に沿って見える木々の面は表ばかりではないので、順路から見える角度とは違う角度から木々を見ると、また別の表情を楽しめるのだそう。

カモが二羽、気持ちよさそうに水遊びをしていた

梅雨の晴れ間の、雲の分厚いお昼前。じわりと汗ばむ暑さの中で、木陰の涼しさがありがたい。抜ける風、木々の匂いを感じながらの散策は心地いい。奥へ進むと、竹林と鳥居が見えてきた。

令和元年(2019年)に100本になった鳥居は、1993年から企業や個人による奉納が始まった。竹林の緑に鮮やかな朱色のコントラストが美しい。京都の伏見稲荷からの分社まで続く。

竹林の向こうに、いよいよ大傘松が見えてきた。大傘松は樹齢600年と言われる一本の松が直径15メートルに渡り、その名の通り傘を広げたような形をしている。近づくと、想像よりずっと大きい。これが一本の松の木。写真に収まらない!幹だけでは支えきれず、支柱によって支えられている。こんなに大きく広がる松は初めて。300年もの年月をかけてこの傘型に仕立てたとのこと。300年…!

大傘松は、庭師が5名がかりで定期的に剪定している。俯瞰できる位置から指示担当者が見て、松の枝の中や支柱の下から残りの4名が枝を上げたり、下げたり、整えたりするのだそう。「雨が降ったら枝が重みで下がるし、お日様が当たらないと枯れてしまう。お日様があたって元気になるように長さを調整します」と庭師の田口さん。大きな台風が来たときは枝が折れて、大きな穴が開いてしまったんだそう。穴を修復するには、他の枝を成長させて穴を埋め、傘の形に整えていく。大傘松を含むこの広い庭園は常時丁寧に手入れされている。美しい庭園を歩いていると、心の中に静寂が訪れる。

万象園は広いけれど、さくっと周りたいときは一時間ほどで楽しめる。この日はゆっくりと全体を散歩して、時々ベンチで休憩して…と気付けばはや2時間。枯山水や庭園が好きで定期的に京都に行っていたけれど、香川にだって魅力的な場所が沢山ある。身近な場所は「いつでも行ける」とついつい行かないまま。なかなか遠出が出来ないことをきっかけに地元香川の名所をまわるようになると、こんな面白いところがあったのか、と発見が多くある。

新型コロナで私たちの生活は一時期特に閉鎖的になり、自粛期間を経てこのウイルスと共に生きる日々が始まった。元通りに暮らすのではなく、これからどうやって暮らしていくのか。旅が以前よりもずっと特別なものになる中で、日常の中に埋もれそうな非日常、これまで見過ごしてきた愉しみやときめきをもっと見つめていきたい。(取材協力:中津万象園・丸亀美術館)

中津万象園・丸亀美術館
貞享5年(1688年)、丸亀二代目藩主京極高豊候により中津別館として築庭された。庭の中心には京極家先祖の地、近江の琵琶湖を形どった八景池を置く。近江八景になぞらえて、8つの島を配し、その島々を橋で結んだ回遊式の大名庭園。湖畔には、庭園内から海まで一望できたという中2階の茶室と母屋が設けられている。丁寧に手入れをされた庭園は樹齢600年の大傘松や京都の伏見稲荷分社、色鮮やかな100本もの鳥居、季節による草花の変化など、見どころがたっぷり。夕暮れ時の絶景もおすすめ。新型コロナウイルス感染症対策に関して、必ずこちらをご確認の上お越しください。
香川県丸亀市中津町25-1
TEL:0877-23-6326

<利用案内>
◇9:30-17:00(最終受付 16:30)
◇休園日:水曜、年末
◇庭園・絵画館セット券:高校生以上1200円、小中学生500円
◇庭園・陶器館:高校生以上700円、小中学生300円
◇特別展「川島猛展 ‐ I’m glad」のみ(8/30まで):高校生以上800円、小中学生400円
◇アクセス:JR讃岐塩屋駅より徒歩15分
◇無料駐車場完備

◆シリーズ 旅するように、地元を楽しむ
1.丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
2.四国村
3.中津万象園

小林繭子

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に高松へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、ミヤモト惣菜店広報&BARタイム担当など、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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