旅するように、地元を楽しむ:2. 四国村

バスと電車が好きだ。好きなことをしながら乗っていれば、オートマチックにどこかに連れていってくれる。香川に住んでいて自動車を持っていない、というと驚かれることが多いけど、必要性を感じたことはほとんどない。自転車で街中の大体のところには行けるし、電車もバスも結構充実している。電車とバスだけで行ける場所、と今回は四国村に行ってみることに。

四国村へは、瓦町駅からことでんで15分、琴電屋島駅で降りたら、駅すぐのバス停から出ている屋島山上行シャトルバスに乗って2分。街中からのアクセスがとってもいい。シャトルバスを降りてスマホを開こうとしたら、運転手さんが「四国村なら、そこを行くとすぐですよ」と教えてくれた。この日はぴかっと晴れたり、時々雨が降るような、変な天気だった。

四国村は、四国に残存する特色ある古い民家をほぼ当時のまま移築復元している野外博物館。最初に出会うのは、「かずら橋」。こちらはレプリカで、祖谷のかずら橋のように高いところにあるわけじゃないけど、大人になってからこんなスリリングな思いをするのは久しぶり。橋にしがみつくようにして渡った。(かずら橋を渡らないルートもあります)

歩き進めると、小豆島の農村歌舞伎舞台が登場する。客席側に座って小休止してみる。ざざ…と木々を揺らす風の音が鳴り、どこからか滝のような水音もする。どこから聞こえるんだろう。四国村がどんなところなのか詳しく調べないまま来てみたけど、こんな気持ちのいいところだったんだ。ぽつぽつと時折降る雨で、空気はひんやり。マイペースに歩きはじめる。山のような、森のような空気の中での散歩は、久しぶりな気がする。

四国村では、醤油蔵などのこの地方独特の建築物を見ることができる。こちらは、「讃岐の三白」の一つ、和三盆のために牛が石臼を挽いた円錐形の小屋「砂糖しめ小屋」。

四国村ギャラリーへ。こちらは、安藤忠雄建築。ギャラリーではピカソやボナールの絵画、民俗資料などが展示されていました。ギャラリーの奥から外に出て、屋島の街の風景や、水景庭園を楽しむことができる。この日は残念ながら曇り空。それでも、高台からの景色は気持ちいい。

ギャラリーを出て、再び山の中を歩く。竹林を抜けたところにある「江崎燈台退息所」に入る光がきれい。

なんとなく遠回りをしながら散策していると、あじさいに出会った。これから沢山咲くのだろう。雨露に濡れた草木が、風に揺らめいてきらきらと光る。旬まっさかりのびわ、梅やアガパンサスなんかも見かけた。入口で受け取るマップには、各場所で見られる花についても印されている。

各所には案内表示も、手元には園内のマップもあるけれど、山の中を歩き続けていると、自分がどこに向かっているのか、どこを歩いているのかわからないまま歩き進める、冒険心のようなものが生まれていた。アイデアが降りてくるのは日常ルーティーンの中、という話もあるけれど、コロナ禍で長い期間新しい刺激、未知の刺激に触れないような日常生活が続いていた。ほんのちょっと街中から出ただけなのに、今は知らない山の中をずんずん歩いている。鬱蒼と茂る木々や草花の中に埋もれるように歩いていたら、突然スパンと視界が開けた。

残念ながら曇天だけど、唐突な広い視界はなんだか清々しい。いつもはあの街の中にいるのにな(方向があってるかはわからないけど)、と思いながらみずみずしい空間で一息つく。今自分がどこを歩いているのか、どこに向かっているのかわからないときでも、歩みを進めていれば必ずどこかにつく。どこかにつく、と思っていればもう少しがんばれるんだよな、と思いながら再び木々の中へ。

流政之氏による「染が滝」

ずんずんと歩いていると、流政之氏による「染が滝」に遭遇した。山の中をぐるぐるめぐる中で時々不意に大きくなる水の流れる音は、ここからきていたんだ。風、匂い、雨、流れる水、木々、何色ともいえない色…今日は普段無意識に見過ごしているちいさなことを全身で感じている。自分の中の邪念とか、余計な思いが小さくなって、心は無心に近くなる。きれい、とかきもちいい、とか、そういう素直な感情がぽこぽこと湧き出る。

231メートルの石畳も流政之氏によるもの。歩いて楽しむ作品になっている。

何も考えずに山の中を散策していたら、あっという間に3時間も経っていた。一般的には60分から90分位で楽しめる規模です。お腹がすいたので、四国村の入口にある手打ちうどん「わら家」へ。ちなみに、神戸から移設した「ティールーム異人館」ではカフェメニューが楽しめる。

「生姜をすっておまちくださいね」と渡されたセット
生醤油うどん。名物は大きな壺に入ったつけ出汁と楽しむ「釜あげうどん」。

大好きな生醤油うどんを注文し、しょうがをすりながら待っていると、10分程でぴかぴかに輝くうどんが登場。うどんそのものが香り豊かで、コシもしっかり。カヤ葺の古民家を複合的に構築したという店構えは、自然光がうつくしい。

こんなに手軽に自然の中を堪能できる場所があるなんて。先人の知恵の詰まった建築などをそのまま移築した博物館が、こんな自然の中で楽しめるなんて。四季で移り変わる山と共に、訪れる季節で感じるものも違うのだろう。

四国村の中には、安藤忠雄、流政之など、アートが好きな人にとっても楽しいポイントが詰まっていた。お天気のいい日に、是非ふらっとお散歩してみてほしい。四国村に行く時は、虫除けスプレーを持って、動きやすい服装やスニーカーで行くのがおすすめ。雨の日は足元が危ないので、ご注意ください。

四国村を出た後は、再びシャトルバスに乗って10分ほどの屋島山頂にも寄ってみた。

雲が多いこんな天気の日だって瀬戸内はうつくしい

獅子の霊巌からの遮るもののない瀬戸内の眺望は爽快。いつもの日々にも海はそばにあるのに、なんだかひさしぶりにゆったりと海を見た。街中から電車15分、シャトルバスですぐ。屋島ってこんなに近かったんだな。昼からのお出かけでも十分楽しめるこの近さ。ちょっと遠くに自分を連れ出すのに、ぴったりの場所でした。(取材協力:四国民家博物館 四国村)

四国民家博物館 四国村
屋島山麓の地に、四国各地から古い民家を移築復元した野外博物館。自然あふれる敷地には、江戸時代から大正期にかけての地方色豊かな建物をほぼそのまま活かして配置し、当時の生活の様子がうかがえる民具も展示されている。季節の移り変わりを感じながら先人たちの智恵や工夫、文化に直接触れることができる。※現在、四国村は県外からの入村はご遠慮いただいています。新型コロナウイルス感染症対策に関して、必ずこちらをご確認の上お越しください。
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香川県高松市屋島中町91
TEL:087-843-3111

<利用案内>
◇8:30-18:00(4-10月)8:30-17:30(11-3月)※入村は閉村の1時間前迄
◇年中無休
◇一般1,000円、高校生600円 、小中学生400円 ※企画展開催期間中は料金の変動有り
◇アクセス:琴電屋島駅下車、駅すぐの屋島山上行シャトルバス乗車後2分
◇無料駐車場完備

▼屋島エリアのスポットをマイマップでまとめました。電車とバスだけでも楽しめる場所を選んでいます。

*記事の内容は、掲載時点のものです

◆シリーズ 旅するように、地元を楽しむ
1.丸亀市猪熊弦一郎現代美術館
2.四国村
3.中津万象園

瀬戸内通信社 編集長/ライター、コピーライター:愛知県出身。12年ほど東京で暮らし、2016年に小豆島、2019年に香川県高松市へと移り住む。ライティング、IT企業営業事務、広報サポートなど、気持ちの赴くままいろいろ。豊島美術館、李禹煥美術館が好き。

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